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「マサト君は、美容師になりたいの?」
良人さんの言葉に、俺は何もこたえられず目を見開き、ただ瞬きを繰り返す。
「いや、美容師を目指す美容学生でさえ、今時あんな熱心に見学になんか来ないからさ。てっきりそうなのかと・・・はは。早とちりしちゃったかな?」
いや、でもそうなのかも知れない。
俺は、良人さんに・・・美容師に憧れを抱いている。
単純に、仕事をしている姿は格好いいし、自分の人生を自分の腕一本で生き抜くなんて相当な熱意と努力がないとやっていけないだろうに、それをこんなに心底楽しそうにやっているなんて・・・でも。
「正直、わかりません。ただの興味本意の半端な気持ち・・・かも知れません」
俺の言葉に、良人さんは楽しそうに笑い出す。
「・・・なんでそんな笑ってんすか」
「あはは。ごめんごめん・・・そんなむくれないでよ。いやぁ~、本当にマサト君があまりに真面目なもんで、つい」
そう言うと、良人さんは更に笑う。
「あぁ~、いや、別に馬鹿にしてるとかそんな変なことじゃなくて・・・美容師なんて頭悪くて大学行けない奴とか、遊び回ってる奴とか、ただなんとなく~とか、モテたいから~とか、そんな、適当な理由で目指す奴がすっっっっっごい多いからさ、マサト君がそんなに真剣に考えてくれてるのが嬉しい・・・のかな?なんか、そんな感じ」
「自分の将来を、そんななんとなくで決めてしまうなんて・・・」
「いや、でも実際はそんなもんだったりするよ?あ~・・・ちなみに、マサト君の人生設計ってのはど~なってんの?」
俺は良人さんに、つまらない俺の辿るであろう未来を話す。
大学へ行き、法学部を専攻し、将来は弁護士か検察官か裁判官か・・・。
その為に勉強に明け暮れ、司法試験に合格し、見合いでもして結婚して子供を産んでもらって死んでいく。
そんな、つまらない人生。
「すごいな・・・ちなみに、大学はどこを?」
俺が受験する予定の大学の名を告げると、良人さんはしばらく口を開けてポカーンとしていた。
「ほぇ~・・・本当に、マサト君真面目・・・ってか、頭良いんだね。そっか・・・でもそこには、マサト君の意志はないんだろ?一度、ちゃんと自分自身と向き合って、自分の人生について考えてみたらどうかな?人生ってのは、きっと君が思っているより長くて短い。後悔をしない人生を送る為には、常に決断をすることだ。誰のせいにもせず、自分で、きちんと物事を決めていくことだ。だって、自分のことだろ?」
そこへ、また料理が運ばれて来た。
話はまた中断する。
これで、注文した料理は全て揃った。
「とりあえず、食べようか」
良人さんの言葉に、頷く。
良人さんの言葉が、頭の中でぐるぐると繰り返し再生される。
今まで棚上げにして考えてこなかったこと、目をそらしてきたこと・・・。
『自分の将来を、そんななんとなくで決めてしまうなんて』
あぁ、俺だってなんとなく親の望むまま進路を決めるなんて、適当だ、なんとなく美容師を目指しているという奴等と何ら変わらない。
いや、他人の意思に将来を委ね、自分で決断をしていないのだから、それ以上に性質が悪い。
『後悔をしない人生』
俺は、将来どんな大人になりたい?
どんな仕事をし、どんな人生を送りたい?
俺は・・・。
一生懸命になりたい。
がむしゃらに、夢を追いかけ全力で努力出来る熱意を持ちたい。
俺は、このままつまらない、色のない世界の中で人生を終えるのは・・・嫌だ。
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