アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
町外れの小さな一軒家。
雨に打たれて天日に晒され少し茶けた白壁に、空に混じりそうな青い屋根。
手入れする人がいないのか雑草が伸び放題だけど、庭で飼われている犬の周りだけは土が見えている。
そこに住むのは1人の男。
僕は真っ赤なバイクに乗って、彼に会いに行く。
あと20m、バイクのエンジン音に気づいた犬がワンワンと吠え立てているのが聞こえる。
あと10m、一日ぶりに見た庭はまた少しだけ雑草が伸びたような。
あと5m、あの人が庭先にいると分かっているのにいない妄想をして心が沈む。
0m、バイクを降りる僕に一層吠え立てる犬の頭を宥めるように撫でながらベンチに腰掛けている彼の姿を見て、心が天に昇るよう。
「西田さん、郵便です」
庭を覗きこみながら声をかけると、彼はヒラヒラと白い手を振った。
「おはよう郵便屋さん。悪いけどこっちまで持ってきてくれるかな」
彼に郵便屋さんと呼ばれると、途端に自分の仕事が誇らしく思えた。
雑草生い茂る庭には、もう何度も足を踏み入れたことがある。
見た目は鬱蒼としているけどよく見ると小さな花が咲いていたり、蝶が飛んでいたりしていてここにだけ自然が生きている、そんな気がするのはきっと彼の住む家だから贔屓目で見てるだけだけど。
犬小屋に繋がれた犬はもう大興奮で尻尾を振って僕に熱烈な挨拶をくれる。
襲いかかってこんばかりの様子に、僕は頭を2度撫でる。
分かるよ、君の気持ち。
君は、僕に会えて嬉しいんだろう。
僕も同じさ。
僕に尻尾があったら、もう君とは比にならないくらい振り回しているに違いない。
「今日はいい天気だね」
「……はい。昨日は雨でしたからね」
「そうか。郵便屋さんは雨の日は休み?」
「まさか。ちゃんとお仕事してますよ」
昨日はあなた宛の手紙が無かったから来なかっただけで、と内心呟く。
毎日あなた宛の手紙があればいいのに、と考えてしまうが手の中にある一通の手紙を思い出し、少しだけ気分が曇る。
「これ、郵便です」
それは僕の手から、彼の手に渡る。
彼が一通一通送り主を確認するのを、僕はジッと見つめてしまう。
一通目は彼のかかりつけである大学病院からの封筒、その大きさからするに概ね診察結果でも入っているのだろう。
彼はそれを気にとめる様子もなく小脇に置く。
2通目、3通目はなんでもないただのダイレクトメール、そして4通目。
表に「西田賢一様」と丁寧に書かれた真っ白な封筒、送り主の名前は……。
「あの……」
咄嗟に声を掛けると彼は僕を見上げる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3