アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3
-
都会は騒がしい、と病院のベッドでそう溢した僕に老いた両親は知り合いのツテを使ってこの家に住まわしてくれた。
恋人がいない僕のたった1人のパートナー、ゴールデンレトリーバーのゴローと広い家で2人暮らし。
仕事病の僕が、仕事を失った。
大学を卒業してから立ち止まることなく走り続けていた僕は休み方を知らず、家にいるだけでストレスだった。
周りは知らない人ばかりだ、外にも出たくない。
時々様子を伺いに来る両親が置いていくレトルト食品だけで食いつなぎ、食べて寝るだけの日々。
ゴローの散歩だけはどうにもならなくて夜中に行くこともあったけど、人には会いたくなかった。
体がベッドと一体化しそうだと、くだらないことを考えて1日が過ぎていく。
たまらなく怖かった、僕がいなくても陽は落ちて新しい朝が来ることが。
ベッドに寝転び朝日を浴びること、それがまるで拷問のように思える日もあった。
そんな日がもう何週間も過ぎた頃、僕は彼と出会った。
眠れない夜を過ごし気分はどん底、もういっそのこと死んでしまおうかとやけくそになって二階のベランダに出たあの朝、赤いバイクにまたがった彼は僕を見上げいったんだ。
おはようございます、って。
単純だけど、くだらないかもしれないけど、その時僕は恋をしたんだ。
「……今日は、嬉しかったなあ」
1日ぶりに彼にあった、いつもなら挨拶しかできないけど今日は少し話もできた。
それに最後には、あんなことまで。
「僕の大切な人……なんて」
今さっきのことを思い出して、僕は思わず赤面してしまう。
また、手紙を書こう。
真っ白な封筒に真っ白な便箋を入れて。
自分の名前を書いて、ゴローの散歩がてら赤いポストに入れに行こう。
そしたら、彼が届けてくれる。
僕の手元に大切な手紙をくれる。
彼を例えるなら春先の太陽だ、寒々とした僕の心を暖かく照らしてくれた。
彼が真っ赤なバイクにまたがり家へ訪ねてくるのを心待ちにしている僕は、さながら冬眠中の熊といえるかもしれない。
彼のいる間だけ僕の心はポカポカして、彼がいなくなればまた冷たい風が吹く。
それが何度も押しては返し、春はやってくる、だろうか。
花は咲くだろうか、なんて詩人のようなセンチメンタルさに思わず苦笑いがこみ上げた。
初恋真っ只中の中学生、いや小学生くらいの精神年齢で彼を思ってる。
彼が好きだ、彼のことを考えるだけで胸がギュッと締め付けられる。
また、明日来てくれるだろうか。
念のために手紙を書こう、今すぐ出せば明日には僕に届くだろうか。
明日、か。
あんなに怖かった明日を心待ちにしてるなんて、僕は単純だ。
窓の外を明るく照らす太陽、ふと思い立ってカーテンを開けてみた。
少し胸がドキドキする、外は寒いはずなのに窓を閉め切っているからぽかぽかと暖かい。
明日も晴れるといいんだけど。
end.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 3