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「ああ、すみません。コンタクトがずれてしまって」
くすり、と笑って帝が離れていく。
何を言っている? 何を考えている?
あの言葉が頭にこびりついて離れないというのに、どこかでそれを否定してしまう。
心臓が、うるさい。流れる血液が、熱い。何かが、滲む──。
スタジオ内が安堵の空気に包まれた中、帝が向かったのは監督のところだった。
「それより、監督。俺、提案したいことがあるんですけど」
「ん? 何だい?」
帝の目的は最初から監督にあることを提示するためであった。
勿論、コンタクトがずれたなど真っ赤な嘘だ。そもそも帝はコンタクトをしていないのだから。
「学生らしく盛っていいなら、いっそのこと馨を犯していいかなって」
「え、ええ……?」
犯す──これには帝なりの意味があって、そう言われた者は壊れるまで、意識をなくすまで、すべてを食いつくされる。そして、この言葉、それがどれだけ残酷なことかを、業界にいる誰もが知っている。だからこそ、監督の顔が引き攣っているのである。
「馨には素質がある。いい画が撮れますよ」
馨が自分を好いている。それで、ただのセックスだけで済ませるのは帝としては何の面白みもない。
それならば、──と。
帝の口元が歪む。それが酷く美しく見えるのはなぜだろうか。
「うーん……でも、なあ……」
「ねえ、監督。知ってますよね。俺が助言してるんですよ?」
ニコリと、冷酷で美しい笑み。
帝がそう言えるのは、ほぼ確実に売上が伸びているという事実があるからだ。それがあるから、監督やスタッフ共々、この言葉を無下には出来ないのだ。
「監督なら、わかってくれますよね?」
そう強く言うと、監督は観念したようで、深く溜息をついた。
「……ああ、もうわかったって。仕方ないな。まあ、彼をあんまり無理させないようにね……」
「ありがとうございます。監督なら許可してくれると思いました」
ふ、と笑って、馨の元へ行こうと振り返えると、そこには三津田が立っていた。
「帝……」
物凄い形相で、声が怒りで震えている。
「何、みっちゃん」
それに対抗して、帝は三津田を見下すように見つめた。
「ちょっとこっち来いよ」
すぐ撮影は再開するし、スタジオを出るわけにはいかなっかったので、三津田と帝は人気が少ない機材を置いている場所へ移動した。しかし、確実に人が来ないとは言えないので、声のトーンを小さくする。
「お前、何考えてんだ。バカなことするんじゃねえ」
「はあ? たかがマネージャーごときで……」
「マネージャーとして馨の体調を考えるのは大切なことだ。第一、馨はまだ慣れてないのに、お前についていけるわけないだろ」
そう三津田は言っているが、三津田の馨に対する気持ちに気付いてしまっている帝には、どうしても馨を守りたいことの裏に、嫉妬心が芽生えているのを感じた。
くく、と帝が嘲笑うと、三津田の眉間に皺が寄る。
「慣れてない? 嘘言うなよ。つうか、みっちゃん、馨を売る気、更々ないだろ。毎回、下手な相手ばっか選びやがって。俺が選ばれたのが、ほんと不思議だよなあ」
「……お前、ほんと何考えてんだ」
「さあ? けど、みっちゃんみたいに底辺でちょこまかやってる暇はねえからなー。頂点は頂点なりの行動で……ってな」
「帝!」
怒りが最高潮に達した三津田は、グイッと帝の胸倉を掴んだ。
だが、睨んだところで、帝はまったく動じなかった。むしろ、三津田を見下す瞳が強くなった気さえする。
「甘いんだよ、みっちゃん。いつもいつもアンタは。少しは這いつくばって俺に立ち向かって来い……!」
早く離せ、とでも言うかのように、三津田の腕をグッと握る。すると、ドスの利いた声で怯んだのか、軽く通り抜けるように三津田の腕は落ちていった。
お前は、すぐに逃げる。だから、落ちぶれる。
帝は、舌打ちをした。そして、うつむく三津田をまたあの瞳で、けれども、どこか懐かしさも含ませて見る。
「アンタは、そんなもんじゃないだろ……早く戻って来いよ。なあ、リオ」
「……その名前で呼ぶなつってんだろ」
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