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夕方5時を少し過ぎた頃、いつも通り補習を終えた深谷が図書室に顔を覗かせた。僕の姿を認め、早足で歩み寄ってくる。
「ごめんね、お待たせ。」
「お疲れ様。一人?」
「…うん。」
「そう。帰ろうか。」
深谷の気配を背後に感じながら机の上に広げてあったノートや参考書を閉じる。シャープペンをペンケースに戻そうとしている時、深谷が口を開いた。
「明日、カラオケ行かない?」
今まで深谷から誘ってきたことなど一度もなかったから、驚いた。だが違和感を覚え、そしてすぐにピンと来た。
「田辺?」
「そう、勉強会しないかって!俺と、天馬と田辺の3人で。」
持っていたペンで深谷の太腿を刺した。芯は出ていなかったが、水脹れが出来ている部分だ。
「い゛ッ、…ッ!」
深谷が短い悲鳴を上げ、足を押さえて蹲る。図書室に居た生徒が全員深谷を振り返った。
「この話はまた後でしようか。」
鞄に教材を全て仕舞うと席を立った。その後を、足を庇うようにして付いてくる。
「理は行きたいの?」
「…う、ん。やっぱり駄目かな。」
勉強の場所にカラオケボックスを選ぶなど、田辺は最初から勉強する気などないのだろう。
今日の食事の当番は僕だったが、半分は深谷が手伝った。二人で作った食事がテーブルの上に並び、テーブルを挟んで向かい合って座る。
駄目だと思っているのならば最初から聞かなければいいのにと、歯切れ悪く答える深谷を前に思う。明るい調子で誘われて、断れないで居る深谷の様子が目に浮かぶ。
「別に駄目じゃないけど。僕は行かないし、金銭の援助は一切してやらない。それでもいい?」
「うん!ありがとう、天馬。」
意地悪を言ったのに、素直に喜んでいる深谷に面食らった。彼は断れなかったのではなく、自分の意思で行きたいと思っているようだった。僕の知る限り、田辺は彼にとってこの高校では始めての友達だ。友達に誘われて一緒に出掛けることはきっと初めてで、嬉しいのだろう。
「天馬、悪いけど後で携帯貸してくれないかな?」
「いいけど、何で?」
この部屋には固定電話がない。深谷に携帯を手渡しながら訊ねる。
「田辺に返事したいから。」
心なしか声が弾んでいるように思う。食後、洗い物を済ませてから小さく折りたたまれた紙を見て電話を掛けていた。すぐに電話は済み、手元に携帯が返って来る。
「帰りは何時になるの?彰に迎え行かせるけど。」
「分からない…けど、大丈夫だよ。此処の場所も分かるし一人で帰れる。わざわざ迎えに来てもらうのも悪いし。」
「それは気にしなくてもいいんだけど。分かった、明日携帯持たせるから帰る時連絡だけはして。」
「うん!ありがとう。」
深谷の交友関係に口を出すつもりはなかったし、束縛したいとも思っていないはずだった。
浮かれた表情をしている深谷が気に入らない。
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