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33本目、欲情。
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僕たちはトイレの個室から出る。
僕はもう歩くことさえままならないほど全身の力が抜けている。
笹窪さんは抑制剤を買うと言い薬剤師さんに声をかけに行った。
その間僕は店の外でしゃがんで待っていた。
店内よりは涼しいため熱が体から少しは抜けていくように思えた。
(…笹窪さん早く来て)
心無しか通行人と目が合う気がした。
店の前でこうしている事に違和感を持っているのか、発情期のオメガ性がいるから目立っているのか。きっとどちらもだろう。
こんな発情期丸出し状態で人前にいるのは危険しかない。
早く室内に行きたい。誰もいないところへ行きたい。
「お待たせ。行こう」
笹窪さんは抑制剤のみを買ったにしては大きい袋を持ち店から出てきた。
しゃがんでいた僕は手を伸ばし笹窪さんに立たせて貰う。自力ではすくっと立つことも出来ないなんて。
「歩くのきつい?」
「少し…きついです…」
「…早めに行こうか」
笹窪さんは僕の手をしっかりと握りしめて早歩きをする。引っ張られている分にはまだマシで何とか足が交互に動く。けれど呼吸が苦しい。
普段の僕なら人と手を繋いで歩くなんて絶対にしないだろう。
周りにどんな目で見られてるのかを気にしてしまう。
でも今はそれどころじゃない。
周りにどんな目で見られていても、もはやどうでもいい。
手を繋いでいるだけで体はゾクゾクするくらい発情している。
(…笹窪さんの手、さっきまで僕の体中を触っていたんだ)
笹窪さんはたまに振り返って僕の表情を見て歩くペースを調節していてくれた。
お互い抑制剤がきれているのに、目の前に発情しているオメガ性がいるのに。
彼はアルファ性なのに、どうしてここまで親切なのだろう。
もしかして優しいふりをして家に監禁でもされてしまうのではないだろうか。
…もうそれでもいい。今はとにかく触れて欲しくてたまらないんだ。
「…今何考えてる?」
「へっ…?」
「フェロモンが濃くなってるんだよ」
「…なにも」
笹窪さんに触れられたいと思っていました。
なんて言えるはずもない。
そういうことを考えているとフェロモンに反映されるらしく、笹窪さんもかなりキツそうだ。
それなのに僕のことを気にして歩いてくれている。
監禁なんてされない…よね?
やがて笹窪さんは足を止めた。
「着いたよ。エレベーターで三階まで行こう」
笹窪さんが住んでいるというマンションに着いた。そこは外観からして物凄く高そうでこんな状態の僕でも一瞬冷静になるくらいだった。
パッと見真っ黒な建物でどこかの会社に見える。
入口には植物が並んでおり沿うように水が流れている。
等間隔で地面には丸い照明が埋め込まれていてオシャレさのあまり足がすくむ。
セキリュティ完備もバッチリなようで笹窪さんはカードキーで中に入った。
(僕のアパートとは大違いだ…)
玄関の鍵しか防犯完備がされていない身からするとこのマンションは新鮮だ。
静かなエントランスを通り抜け丁度一階で待機していたエレベーターに二人で乗り笹窪さんは三階を押した。
重厚なこのエレベーターは動く時に音を全く立てずに静かだった。
「平気…なわけないか」
「…すみません」
こんな狭いところで二人きり。
それだけでまた欲情してしまいそうだった。
さっきまでの出来事を思い出すとまた味わいたくなってしまう。
少し前まで知らなかった感覚や感情をこの短い時間に濃密に覚えてしまった。後戻りは出来ない。
「笹窪さん…」
僕は笹窪さんの顔に触れた。
「そんな頬を染めて上目遣いしないでよ。我慢が出来なくなりそうだから」
「キスして…ください」
「冗談で言ったつもりだけど冗談じゃ済まなくなりそうだよ」
僕は壁と笹窪さんに挟まれた。
ゆっくり顔を近づけてきたので僕は目を閉じた。またあのキスをしたい。笹窪さんと。
(…あれ?)
何もされずにいたため目を開けた。
その途端唇が重なった。
顔が見える状態だと急に恥ずかしくなってしまう。目を閉じて唇だけの感覚を欲していたもののこれはこれでまた気持ちよく感じてしまう。
「…歩生」
吐息のかかる距離でボソッと囁かれる。
その時エレベーターがゆっくりと止まって開き出した。
このキスのせいでまた頭がぼーっとしてきてしまう。
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