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今日も今日とて、お弁当がうまい!
秋晴れの澄んだ風が心地よく吹き込む窓際の席で、僕、立花裕(タチバナユウ)はお手製のお弁当を機嫌よく平らげていた。
そんな僕の目の前には親友の結城真志(ユウキシンジ)
が大きなメロンパンを頬張りながら、メンズファッション雑誌の表紙を舐めるように見ている。
「すっごい腹筋。やっぱ人気者の躰は美しいねぇ」
まるでどっかのエロ親父みたいな言い方に呆れてしまうけれど、いつものことなのでスルーである。
見た目はちっこくて可愛い結城は黙っていればお人形のようなのに。
ホント、残念なことこの上ない。
「そのモデルさん、先月号でも表紙じゃなかった?」
大好きな甘い卵焼きを堪能し終えた僕は、結城が凝視している雑誌の表紙へ視線を向けてみた。
確かに結城の言う通り、綺麗に割れた腹筋を持つ引き締まった躰のモデルさんだ。
だからって決してゴツ過ぎるわけでもなく、細めに絞られ、綺麗に小麦色に焼けた上半身はエロ親父結城でなくても、感嘆してしまう。
「そ。今超人気でこの“ジョー”が表紙の雑誌は男女関係なく購買意欲を掻き立てるらしいよ」
“ジョー”というのがこのモデルさんの名前らしい。
「なるほどね。確かにカッコイイ躰だもんね」
「いやいやいや!立花、躰だけじゃありませんよ、ジョーのこの整い過ぎたフェイス!ちゃんと見なさいって!」
表紙をこちらに向けて立て、力説する結城に苦笑いが零れる。
君はどこの回し者ですか?
ジョーってモデルさんの関係者ですか?
そう内心でツッコんで、結城の指差すモデルさんの顔をじっと見た。
「・・・ホント、これはイケメンと呼ぶに相応しいお顔立ちだ」
「でしょ?そこら辺のイケメンには辛口の立花でも認めちゃうイケメンでしょ!」
僕別に、そこら辺のイケメンさんに辛口だったりしないよ?
口に出さない僕の抗議を感じ取ったのか、結城はフンッと鼻を鳴らしてパックのマスカットジュースをズズズッと飲んだ。
「立花は自分が可愛い・キレイ・カッコイイの三拍子揃いだから、余所のイケメン君達への評価が辛いでしょ!みんながあの人かっこいいね~なんて言っても、『え、別に』とか言っちゃう子でしょ!!」
「・・・そうかなぁ、そんなつもりないけど。しかも僕、別にそんな変な三拍子は持ってないよ」
「これだから無自覚天然は嫌だ。君は見た目キレイ系で、天然っぷりが可愛くて、さっぱりし過ぎた性格がカッコイイって周知の事実として認識されてるってのに」
「えぇ~、そんな事実ないのに」
『はいはい、無自覚天然君は黙ってて』なんて言って、僕の反論を無視する結城は、手元の雑誌をペラペラと捲り始める。
酷い扱いだ・・・結城の方が僕よりもずっと可愛くてお人形さんみたいなのに。
結城に比べれば、僕は至って普通の男子高校生らしい見かけなのになぁ。
納得いかないって顔をしているだろう僕のことは無視したまま、結城はジョーの特集記事を丹念に読んでいた。
「うわぁ、ジョーって高2だって。僕らと同じなんて信じらんないね。ね、立花」
僕の不服は無視しておいて、ジョーの話題は振って来るって何なんでしょうね。
でも僕もそんな結城には慣れっこだし、引きずる性格でもないからそこはちゃんと受け答えしてあげるよ。
「そうだね。同い年って感じじゃないね。すっごく大人っぽいもんね」
「ねぇ~。僕ジョーにだったら抱かれたいかも」
「はあ?」
「ブッ!」
結城の問題発言に顰めっ面して上げた僕の声に被さるように、後ろの席から飲み物を吹き出す音が聞こえた。
「・・・ゴホッ、ゴホ」と苦しそうに咽る音に僕が後ろを振り返えると、僕の後ろの席で城ノ内智也(ジョウノウチトモヤ)がペットボトルのお茶を握り締めて咽返っていた。
「城ノ内、大丈夫?ほら、結城が変なこと言うから城ノ内まで被害を被ったじゃない」
「えぇ、別に変なことじゃないよ。ホントにそう思うんだもん」
「結城がどう思おうと勝手だけど、そういう発言は学校のお昼休みに言うことじゃないでしょ!・・・あぁ、ホント大丈夫、城ノ内?」
まだゲホゲホと苦しそうに咳き込む城ノ内の背中を擦ろうかと手を伸ばしかけたところで、城ノ内はその僕の手を察したように、右手を上げて僕を制した。
「だ、大丈夫だ、から。気にしないで・・・ごめん」
少しボソボソした話し方をする城ノ内は、まだ少し苦しそうな息遣いでそう言うと、一つ大きめの咳払いをして僕のことはもう眼中にないとばかりに机の上の惣菜パンに手を伸ばした。
俯き加減でパンを食べる城ノ内は、長めの前髪のせいでその表情を窺うことができない。
長めの前髪の下にある黒いセルフレームのメガネが余計に彼の表情を見えなくさせていた。
「ホント、ごめんね、城ノ内」
城ノ内が人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのはいつものことで、誰に対してもそうなんだけど、僕はちょっぴり寂しく感じながら、もう一度謝ると、大人しく席について彼に背を向けた。
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