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File.3
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『幽霊、名前、硝子の靴』
*
「中村くん、杉田くんを困らせちゃダメだよ」
福山はそう言うと杉田に手を差し出す。
すると、中村と呼ばれた小人はいつの間にか杉田くらいにでかくなっており福山の手を叩き落とした。
睨みあう2人。
「中村?!、何してるんだよ!福山さんに失礼だろ?!」
怒る杉田に中村は反省する色は見えず挙句の果てに舌打ちをする。
福山は怒る様子もなくにこにことそれを見てる。
すると、傍観者の希偲に梶田が話しかけてきた。
「すみません、いつもこんな感じで…」
「あ、いえ…仲いいんだなって思っただけです。あ、先ほどは助かりました。ありがとうございました」
「いえいえ、手助け出来たなら良かったです」
そう梶田と話していると3人が希偲と梶田の方へと近づいてきた。
福山と杉田に関しては険しい感じだ。
「梶田くん!可愛い女の子誑かしてどうする気?!」
杉田は梶田に食い気味聞く。
梶田は「違いますよ!」と、必死に否定している。
福山がそっと希偲を梶田から離した。
「あ!あの、新しい入居者の方ですよね?」
「あ、はい」
杉田はニッコリと笑って希偲に話しかける。
第一印象は人畜無害。優しそうで…
『傷つきやすそう』
「3rd Floor Room2 対象 中村悠一のSS 杉田智和です。よろしくお願いします」
「対象の中村悠一だ」
簡潔な自己紹介に杉田が中村を叱る。
中村はため息を漏らした。
「そんなんじゃ仲良くなれないだろ!」
「相手が仲良くしようとしてねーだろ」
「…っ…」
中村は痛いとこを突くのがうまいらしい。
希偲は一瞬焦るがすぐに先ほどの柔らかい笑顔に戻る。
「4thFloor Room3 西彼杵希偲です」
中村は「ほらな」といったように怪訝な視線を送ってくる。
杉田はそれでも仲良くしようとして質問を投げかけた。
「好きな本とかは?俺は…」
「杉田!!」
突如降ってきた大量の槍や刀。
そして、黒くなる空。
「中村、梶田くん連れて中に入って!」
「わかってる。おい、梶田行くぞ!」
「は、はい!」
慌ただしい中に杉田、福山、そして希偲は先ほどとは全く別の格好になっていた。
杉田は巨大な餓者髑髏になっており中村と梶田の盾になっている。
巨大なその姿に槍や刀は跳ね返されていく。
「福山さん、私は人に守ってもらうことは大嫌いです。しょうに合わないので」
「ですが、危険です」
福山は先ほどとさほど変わってなくスーツ姿だった。
だが、その手には薙刀が掴まれていた。
赤い柄に牡丹の模様。
希偲は青い縁取りの巫女装束。
福山と同じ薙刀を持っている。青い柄に百合の模様。
敵の前に怯む様子もなく寧ろ堂々とした出で立ち。
高揚した気持ち。背中を駆け巡る悪寒ではないものが自分を奮いたたせる。
敵よりも彼女に負けてしまいそうだと。
そう、福山はひっそりと思い口角をあげる。
「風音(かざね) 蝶影(ちかげ) 花炎に塗れ散れ」
その言葉だけがこの瞬間に存在した。
何も音もなく、ふわりと舞った薙刀がまるで空を切ったかのように敵を切る。
コンクリートのアスファルトに降り立つと色も音も元通り。
真っ暗だった空は真っ青になり車やバイクの音が下から聞こえてくる。
「西彼杵様!」
「だから言ったでしょ?私にはSSは必要ないって」
*
私は誰のお姫様にもなれない。
守られる存在じゃない。
護る存在だ。
ねえ、誰か私が落とした硝子の靴拾ってくれないかしら?
そして、名前で呼んで。
ちゃんと、私の名前を。
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