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File.9
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【僕だけが知ってる言葉があるんだ】
*
「たつさん!俺は…」
「信長、あのな…」
「てか、何で私の方に加担してるの?そっちの男の子の考えについてたらいいのに」
驚く鈴木。
別に何もなく普通に言葉をこぼしたかのように。
希偲は当たり前のことを言ったかのように鈴木を見る。
「それは、俺も混妖だから…」
「だから?だったら何?」
「だったら何って…」
希偲は淡々と言葉を並べていく。
それは同じだからこその違う価値観。
鈴木は単純に思った。
彼女は同じものを全て違う角度から、そして全てを見透かしている。と。
「仲間意識?同情?なんだっていいけど、それって目の前にいる自分を大事に思ってくれる人より大事なの?」
「馬鹿みたい」と、希偲は呟くとどこかへと歩いていってしまう。
希偲を信長が追いかける。
「あんなこと言った俺なのに何とも思わないんですか」
「…だって、興味も情も何もないもの」
希偲はそう言うと信長の頬を撫でる。
撫でた場所から傷が癒えていく。
「私は忌み子よ。あなたの言葉も解釈も正しいと私は思う。だけど、彼は違うのよ。だから、押し付けちゃだめだよ」
「…っ、すみません。俺の失礼な言葉で傷つけました!」
「…あ、うん」
希偲は信長の頬から手を離すとそのまま信長の頭を撫でる。
優しく微笑む希偲。
呆然と見ている鈴木。
「ちょっ、お前らな…」
「あの!希偲さんのこと姐さんって呼んでいいですか?」
「え、うん」
「やったー」
信長は嬉しそうにするとずっと姐さん、姐さんと希偲を呼ぶ。
希偲は信長の頭を撫でるのをやめると鈴木の方を見る。
「お前さ、忘れてるよな…。俺のこと」
「鈴木達央。龍の混妖で…」
それはついさっき思い出したこと。
忘れてはいけないようなこと。
けれど、抜け落ちたかのように消えていた記憶。
「私の婚約者」
「お前…」
「え…、えーーーーーーっ!!」
大きく叫んだのは信長。
口をぱくぱくさせて金魚のようだ。
「え、え?た、達央さん?」
「…うん。言い忘れてた」
「ね、姐さん。申し訳ないですけどたつさんは渡しません」
「へ?」
あまりの唐突な言葉に間抜けな声を出す希偲。
信長は目をうるうると潤ませ希偲を見ている。
「えっとな…、こいつと付き合ってんだわ」
「あ、そう。てか、婚約者の話は流れたはずでしょ?」
「え?」
信長がきょとんとしてこちらを見ている。
鈴木と希偲は少し深めにため息をつく。
信長が2人を交互に見ると大きな声で驚きの声をあげた。
*
「希偲ちゃん、おかえり!」
出迎えてくれたのはふりふりのエプロン姿の神谷。
3人はその場で固まってしまう。
「あ、達央と信長と仲良くなったの?」
「神谷さん、そのエプロン何なんですか…」
鈴木がそう言うとダイニングホールの扉から小野が顔を出した。
楽しそうな嬉しそうな顔をしている。
「よくぞ聞いてくれました!これはね~」
「希偲ちゃん、達央。ダイニングホール行こ」
「あ、はい」
小野を無視して神谷は希偲、達央、をダイニングホールへと連れていく。
信長は正装に着替えてくるとエレベーターの方へと向かった。
「ちょっと、無視しないでー」
「お!おかえり、希偲ちゃん、達央」
キッチンの中で動き続けている安元は小野や神谷に皿を渡しつつ2人に声をかけた。
「これは何をしているんですか?」
「希偲様の歓迎会だそうですよ」
後ろから声をかけてきたのは福山だ。
今朝と同じようににっこりと笑っていた。
まるで、あのことはなかったかのように。
だが、希偲は彼を一瞥するとエレベーターの方へと向かった。
「歓迎会とか結構です。では、失礼します」
「え、希偲ちゃん部屋に戻るの?!」
大袈裟に言う小野。
その声に神谷がこちらを向く。
「希偲ちゃ…」
「希偲、せっかくなんだから参加しようぜ。着替えてな」
達央は希偲の肩に手を回すとまるでエスコートするかのようにエレベーターへと進む。
そして、ちらりと後ろを向いて福山の方を見た。
「制服なんで着替えてから来ます」
「あ、うん」
呆然としていた神谷が返事を返すとエレベーターの扉が開いた。
乗り込む二人。
「ちょっと、たつ!何勝手に決めて…」
希偲は抵抗するがエレベーターの扉が閉まり他のメンバーは見えなくなった。
「ねえ、聞いてんの?!」
「口調が戻ってますよ。希偲お嬢さま」
「…っ」
「ここでは、混妖(俺らの存在)とか差別するような人はいねーよ」
達央がそう言うと3階についてしまい背中を押された。
振り向くとニッと笑う達央。
「しっかりめかしこんでこいよ。主役様」
その言葉に返す暇もなくエレベーターの扉が閉まった。
「suradevatA(スラデーヴァター)」
達央は一人ぼっちのエレベーターの中ぽつりと呟いた。
「卑怯者には渡さない」
*
『suradevatA』 女神 サンスクリット語より
「それは世界に3人だけが知ってる魔法の呪文だ」
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