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File.15
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事の顛末。
【森川と鈴村の会談に話がいくまで】
『ごめんね傍にはいられないけど』
*
「すみません、昨日知らぬ間に寝てしまっていて‥‥」
ダイニングホールで希偲が福山に放った一言目に神谷と小野が驚いた顔をしていた。
福山も2人の勘違いに気づいたのか2人の方を見る。
「潤ケダモノ〜」
「神谷さん、D、ドリアン畑に送り込んであげましょうか?」
福山はニッコリと言うと必死で謝る2人を無視して希偲の方を見た。
この曉館で初めてあった頃とは違い柔らかな表情。
だが、まだ表情は硬い。
「いえ、ですがお酒が入ってらしたせいかだいぶおかしな口調でございましたよ」
「え、‥‥聞かなかったことにしてください」
楽しそうに密かに笑うと承諾の返答を返す。
苦虫を潰したような顔をした彼女にまた笑いをこぼす。
穏やかな時間が続いていた。
『はずだった』
「こんにちは、人を探しているのですが」
少し暗めの薄い緑の布に濃い藍色の朝菊模様。
彼の声にいち早く反応したのは小野だった。
信じられないといった表情、怯えた目、荒くなる呼吸。
「ああ、いたいた。大ちゃん、希偲迎えに来たよ」
「近ちゃん‥‥どうして‥‥」
震えた声で。でも、神谷を守るために前に立つ。
福山も希偲を庇うように立ち塞がる。
希偲は何も言わない。
「僕の大事な妹と妹を守るに相応しいSSとして相棒を連れ帰る。当然のことでしょ?」
「‥‥何で近藤がここにいる」
楽しそうに笑う近藤と呼ばれた男は自分を責めるように低い声で言い放つ福山を寸分変わらず楽しそうな笑顔で見つめた。
「潤には関係ないよ」
その冷たい目に背筋が凍る。
近藤は固まる福山をどかせ希偲に手を差し出した。
希偲はあいも変わらず近藤の方を見ずに朝食のフレンチトーストを口に入れる。
「希偲迎えに来たよ。兄ちゃんと行こう?」
「?!兄ちゃん‥‥、近ちゃんが希偲ちゃんの兄‥‥?」
近藤が肩に触れようとすると勢いよくナイフが希偲の手から投げられ近藤の頬を掠めて10m近く先の壁に突き刺さった。
ナイフが掠めた頬に赤い血液が伝う。
「私にもう家族はいませんし、あなたとも行きません」
希偲は妖化すると薙刀の鋒を近藤に突き付ける。
近藤は何も思わないかのように張り付いた笑顔のままだ。
沈黙が続く中吹き出すように近藤が笑い出した。
「ふっ‥‥、は、あはははは、流石ぼくの妹だね。母さんにそっくりだ。‥‥君が忘れていても絶対に手に入れるよ。唯一の家族だから」
「近藤、希偲様に近づくな」
低い声で言葉を発し容赦なく近藤に薙刀の柄の部分を振り下ろす福山。
近藤は軽々と避け、後ろへと後ずさる。
「随分打ち解けちゃったんだね、お互いに。けど、手持ち無沙汰はやだから大ちゃんを連れてくね」
その言葉に小野が肩を揺らした。
近藤と視線を交わす。少しつり上がった口角に嫌気がさす。
そして、小野は伸ばされた近藤の手を取った。
「小野くん‥‥?」
「小野さん?!」
小野は一言「すみません」とだけ言うと近藤に連れていかれた。
あまりにも絶望した顔の神谷、悔やんだ表情の福山
そして、ただ佇むように去った2人のあとを眺めている希偲。
「あれ?3人ともどうしたの?小野は?」
すると、安元が大荷物を抱えてやってきた。
とても悲愴な顔をして、そして泣き出す神谷に安元は怒りを見せ持っていた荷物を全てテーブルと椅子に置き泣きじゃくる神谷の前にしゃがみこんだ。
「神谷さんどうした?何があった?」
「近藤にDが連れていかれた」
怒りの滲んだ声で安元に伝える福山。
安元の肩は揺れる。そして、今まで誰も見たことのない恐ろしい顔で福山に問う。
「それって‥‥近藤孝行か?」
「え、はい」
あまりの剣幕に素の声で返答してしまう。
希偲は変化を解いて何となく普段着を軽くはたくと椅子に座り安元に問う。
「知ってるんですか?」
「‥‥あぁ。俺は孝行に恨まれている」
安元はキッチンに入ると手早く何かを作り、また神谷の所へと戻った。
渡されたマグカップは仄かに湯気が立っている。
神谷はそれをそっと持つとまだ止まらない涙がマグカップの中に入って水面を揺らしたのを見つめた。
「神谷さん、どうしますか」
そう神谷に問うのは希偲だった。
神谷は肩を揺らせて驚くと希偲のほうをゆっくりと見る。
そして、涙を溜めた瞳でこちらを見る。
「どう‥‥って、僕に出来ることなんて‥‥」
「またそうやって言い訳して逃げるんですか?恋人も幼なじみも。無くさない手段があるのに!」
勢いよく立ち上がる希偲。椅子が倒れた。
神谷は涙をこぼしてはまた瞳に涙を溜める。
ふいに希偲の顔を見ると今まで見たことないくらい辛そうで悲しそうな顔をしていた。
「生意気言ってすみません。けど、もし何か行動起こすならばご一緒させてください」
希偲はそう言ってダイニングホールを出た。
福山も希偲を追いかけてダイニングホールを出る。
神谷はその2人に心臓がぎゅっとするような気持ちになった。
あの二人は異性で例えSSと対象だとしても恋人になることもそのあとの未来も見ることができる。
けど、俺には‥‥俺たちには未来なんてない。
「神谷さん、大丈夫ですか?」
「うん、あんげん、ごめんね。もう大丈夫だから‥‥」
そう言って無理矢理笑う神谷。
安元はそんな神谷を見て顔を歪めた。
少しの沈黙の中玄関の方から大きな音がした。
そして、ダイニングホールにやって来たのは大怪我をして意識のない立花とそれを背負った中村だった。
「立花くん?!悠一、これは‥‥」
「立花さんと日野さんが‥‥」
「日野くんが‥‥、連れてかれて‥‥」
ソファに寝かされた立花が呼吸を浅くし話す。
そして、話されたのは日野と立花が近藤と小野にやられたという事だった。
そして、日野が連れていかれたとのことだった。
「杉田くんは?」
「外で戦ってます」
返答したのは中村だった。
その瞬間神谷は雪女に変化すると中村と安元に指示を出した。
「悠一は潤と希偲ちゃんを呼んできて。あんげんは立花くんの手当てとそれから鬼族に連絡して『白の魔術師』と言ったら多分すぐに族長に繋げて貰えるから」
二人は頷くと指示されたことを始める。
神谷は玄関へと急いだ。これが始まりだとは知らずに。
長い長いお話の始まりだとは‥‥
*
「来週の火曜日テラスでティータイムしませんか?」
福山が淹れたココアを飲みつつ提案したのは希偲だった。
ポットを直していた福山はあまりの驚きにポットを落とした。
派手に物音が鳴る。
「大丈夫ですか?!」
福山は平気だと言い、再びポットを直す。
だが、シンクにあったグラスが破れてしまった。
片そうと福山が触ろうとすると、突然激痛が走った。
破片で切れてしまったのだろう。赤い液体が指を伝っていく。
「怪我してるじゃないですか」
希偲はそういうと福山の手を優しく包み込むように握る。
そして、徐々に治っていく傷。まるで怪我など無かったように。
「申し訳ありません。ありがとうございます」
「私のこの能力‥‥」
希偲が何か話そうとするとインターホンがなった。
急いで出ると少し荒い息をした中村が扉の前に立っていた。
これまでの下であった話を全て聞くと2人は急いでエレベーターに乗り込んだ。
「中村さんは達央を呼んでください、お願いします」
希偲がそういうとエレベーターは閉まった。
*
『さぁ、お別れの時間だよ』
そう、誰かが呟いた気がした。
『もう幾度となく繰り返された歴史』
『一度も誰も変えられなかった歴史』
「これは長くて幸せな、夢」
幸せな‥‥夢?
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