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File.16
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そうして、またいらないって言葉がぐるぐるするのさ
*
「神谷さん!」
希偲は神谷を襲う男たちの刀を自らの薙刀で薙ぎ払うと神谷の前に立つ。
福山も希偲に並びスーツのまま薙刀を構えた。
「小野さん、神谷さんを傷つけようとするなんて幻滅しました」
希偲は小野を見て言葉をこぼすと、薙刀を握り直す。
そして、視線の先を近藤へと写した。
不敵に笑う近藤に頭が痛くなる。何か忘れている気がすると。
「希偲、Dはね僕に逆らえないよ。永遠にね。ね、潤」
「何で縛ってるかは知らないけど、それに私たちを巻き込まないで」
希偲はそう言って薙刀を大きく振りかぶり地面を叩き割った。
飛び退く小野と近藤たち。
そして、割れ目から発火し2人を襲う。
「風音 蝶影 花炎に塗れ 散れ」
希偲がそうしている間に神谷が日野を奪い返し希偲や福山の後ろへと下がる。
気絶しているからか日野は呼びかけには応じなかった。
小野は四人から目を逸らし、近藤はやはり楽しそうに笑った。
すると突然大きな風が吹き付け火をすべて消し去ってしまう。
「姫君、やんちゃがすぎるぞ」
語尾にハートが付くような物言い。
ふざけたような格好。
そして、軽快な動きに似合わない大きな薙刀を持ち彼は怪しく且つ厭らしく笑った。
「お待たせしました。族長代理【風鬼】宮野真守 ただいま見参」
ニコッと笑う彼は近藤と静かに見つめ合う。
そして、近藤は冷めた目から一転し明らかに作り笑いとわかるほどに笑顔になった。
「今日はとりあえず帰るよ。またね、希偲」
近藤はそういうと踵を返す。
が、宮野はそれをさせまいと薙刀を振り下ろす。
鋭い風が近藤の頬を掠め、皮膚から血が滲む。
振り向いた近藤は指をスナップさせるとまるで払うように宮野の方へと何かを向けた。それは、ゆっくりと空中を進むと同時に形を変形させ鳥型となり宮野を襲った。
だが、宮野は焦る様子もなく手で払い除けるような動作すると鎌のような斬撃を生み出した。
そして、それらはぶつかり大きな衝撃風をおこした。
「神谷さん、その座敷童子くんとか連れて屋敷に下がってくれる?手当てとかあるでしょ」
宮野は不敵に笑うと薙刀を持ち振り向くことなく神谷へと指示を出す。
神谷、福山が動き出す中希偲は宮野と同じように近藤と小野のほうを見て微動だにしなかった。
「希偲様!何してるんですか、早く‥‥」
「神谷さん、私はあなたにもう何も手放して欲しくない。私はあなたから愛する人を奪ったという証だから」
希偲はそう言うと薙刀を握り直し振りかざした。
そして、瞬時に間合いを詰め近藤の首元へ鋒を突き立てる。
「きりんちゃん?!」
「汝に聞き届けたりその願い、請い奉る」
近藤が早々と零した言葉が何をしたのか分からなかったがその瞬間希偲の攻撃を防ぎ、その上希偲を吹き飛ばした。
宮野が希偲を受け止めて体制を整えさせる。
「‥‥ごめんなさい、足手纏いですよね」
「別にそんなことないよ、希偲」
宮野はそういい薙刀を地面と平行に持った。
そして、空を切る。すると、大きな風を生みおこしたちまちそれは大きな斬撃となった。
「八咫牙狼」
小野はそういい刀を振った。すると狼のような青い斬撃が生み出されて、宮野の斬撃とぶつかった。
「小野さんやるねー、燃えてくるわー」
「宮野くん、今俺たちに戦う理由はない。だから‥‥」
「宮野くん?前はそんな呼び方してなかったでしょ?」
宮野はそういい再び薙刀を振った。
けど、先ほどと同じように小野の攻撃で防がれてしまう。
だが、宮野は口角を上げて言い放った。
「戦う理由?あるよ。俺は今鬼族当主代理だ。あの方の大事な方を傷つけたやつを‥‥」
希偲はふと、近藤から目を離し宮野を見た。が、すぐに目を反らした。
それは反射的に無意識に起こした行動。
「殺らない理由こそないでしょう?」
殺気と、悦楽と、悲しみと、善悪の感情が入り交じった瞳に眩暈がする。
まるで狩りをする獣のような宮野の瞳に身震いすらした。
今この場にいる人間で最もこの戦いを楽しみ、欲している。そんな出で立ち。
「恐いねえ。けど、そんなの僕らに関係ないことだよ、宮野くん」
「あんたは黙ってて」
「どうして希偲は俺のこと覚えてないのに、そんなに突っかかるの?」
近藤は何にも動じてないのか希偲をまっすぐ見て笑う。
その表情に先ほどとは違う悪寒。
「うちの姫君に意地悪しないでいただきたいな」
宮野がそう言って薙刀を持ち直し、希偲の前に立つ。
何にも怯むことのない近藤は微かに人差し指だけを動かした。
すると、うっすらとした影が蛇のように波打ちながら宮野へと向かっていく。
「宮野さん!」
気づかなかった宮野の前に突如地面から浮き出た。
そして、矢のように宮野へとまっすぐ突き進む。
「希偲?!」
それを希偲が庇った。その影はまっすぐと希偲に突き刺さり貫いていた。
そして、砂のように溶け落ちていく。
だが、貫かれた傷口部分から徐々に蝕むように黒い模様が皮膚に広がっていく。
「snake shadow 心臓を縛れ」
近藤はそう言うと指をスナップした。
すると、希偲は地面で藻掻く。けれど、希偲はそれに対するように薙刀を振った。
「汝に聞き届けたりその願い、請い奉る」
そう言葉を吐き捨てるように言ったのは達央だった。
すると、ゆっくりと黒い模様は希偲から剥がれていき一つずつ流れるように近藤へと張り付いていった。
希偲が何度も咳をし、吐血する。
宮野が近寄ると、希偲は手を振り払った。
「今、私に触ってはいけない‥‥」
最後の模様が近藤に張り付くと今度は先ほどの希偲のように近藤が苦しみ始めた。膝をついて。
「近ちゃん?!」
「小野さん、今すぐその男と消えてください。今なら深追いはしませんから」
達央がそう言うと二人は去っていった。
近藤は車に乗るまで何度も希偲の方を振り返り、そして車のドアは静かに閉まった。
*
これが終わりで、始まり
何度も繰り返された歴史が再び繰り返される
『ほら、また一からの未来が待っている』
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