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File.17
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棺の中、君は花に隠されて、僕はもう二度と触れられない
*
「聡!」
立花は叫ぶと、ベッドで談笑していた日野の元へと走った。
日野は泣き出す立花を宥め笑った。
だが、花は咲かない。
「聡、大丈夫?」
「うん、平気。二人が助けてくれたから」
日野がそういうと、立花は二人の方へ向き跪いて頭を下げた。
神谷は慌てて立花を立たす。
「本当にありがとうございます。この御恩は一生‥‥」
しゃべっていると、突然部屋に和装の男が二人バタバタと入ってきた。
息を切らす二人に立花、日野、そして福山が目を丸くした。
「父さん?!」
あまりの驚きにやや大きめの声を出した立花。
動こうとして痛みのせいか顔を顰める日野。
「西彼杵のお嬢から連絡が来て‥‥」
「西彼杵‥‥?あ、そういえば希偲ちゃんは?」
日野はそう言うと、あたりを見回す。
だが、彼女の姿は見えなかった。
「希偲なら、宮野さんと本家に行きましたよ」
「え」
部屋に入ってきた達央が日野の問いに答える。
一番に反応したのは福山だった。
達央は冷めたような怒りを含んだような眼差しで福山を見た
「それはいつだ」
「1時間くらい前に。希偲が‥‥」
「俺、ちょっと行ってきます」
福山はそう言うと、部屋を勢いよく出ていった。
すると、入れ違いに杉田と中村が入ってきた。
「日野さん、お加減どうですか?」
「中村、さっきはありがとうな」
穏やかに話す二人。
けど、それでも、花は咲かない。
「日野くん、やっぱりまだ辛い?」
「何で?」
口を噤む立花。日野の手に覆いかぶせるように、包むように手を握る。
「だって、一つも花が咲かないから‥‥」
「‥‥っ」
日野は立花の手を握り返すと涙を零し始めた。
そして、誰かが何を言うでもなく神谷ら4人は部屋を出た
*
「昌也!希偲が‥‥」
「まもちゃん、当主様のこと呼び捨てにしちゃダメでしょ」
部屋を開けると仕事中なのかパソコンを開けてキーボードを鳴らす小野坂
と、宮野に不敵な笑みを浮かべる細谷佳正
彼は小野坂のもう一人のSSだ
「ほそやん‥‥、じゃなくて!希偲が‥‥!!」
小野坂はパソコンを閉じると眼鏡を置いた。
逆に細谷は黒縁の眼鏡をかけた。
小野坂が立つと、細谷も立ち上がる。
「希偲はどこだ」
「‥‥ご案内させていただきます、当主様」
宮野はそういうと、小野坂と細谷を連れて希偲のところへと急いだ。
*
(痛い‥‥、私死ぬのかな‥‥)
触れたところは暖かくてぬるっとしていた。
この感触は血液。意識もだいぶ朧気なっている。
けれど、たくさんの思い出が頭の中を交錯する。
「はっ、‥‥母上」
息すらまともにできない。
けど、けして死ねないのだ。
あのとき、きっと彼は私が帰ってくるのを当たり前だと思ってる。
「い、ま‥‥、すぐにでも‥‥帰らなきゃ‥‥」
「希偲、どこ行くの」
視線だけを声がする方にむけて。
優しそうに笑う本家当主様。
そして、その後ろには宮野と細谷が立っている。
「いっぱい、出血したんだな」
傷口に触れられて、撫でられる。
そして、小野坂は血液に触れていない方の手で小刀を鞘から抜き、希偲の血液がついたほうの手の人差し指を軽く切った。
「我が従者よ、主が命に従いその身捧げよ」
小野坂はそういうと、再び傷口に触れる。
そして、傷口は白く光った。
*
「宮野!希偲様は‥‥」
「福山さん‥‥、何でここに‥‥」
「達央が教えてくれた」
福山は神妙な面持ちで蒼白な宮野の顔を見る。
そして、宮野の後ろに小野坂と細谷が現れた。
「おぉ、潤。何して‥‥」
「あの人はどこだ」
「奥の離れだ。行くのはいいが、自己責任だぞ」
小野坂はそういうと、どこかへと行ってしまう。
福山は離れへと、走る。宮野の言葉も聞かずに。
「福山さん‥‥、これ以外どうしょうもないんだ‥‥」
(僕達はまた同じ歴史を辿る運命なんだよ)
*
「希偲様!」
扉を開ければ布団の上で座り本を読んでいる少女。
線の細さに今にも消えてしまいそうだった。
「良かった、ご無事だったのですね。遅くなり申し訳ございません。準備のほうしますので【曉館】に帰りましょう」
彼女はこっちを見たまま何も言わない。
表情も変わらない。幾度と繰り返した言葉は一言一句間違わない。
「‥‥っ、希偲様っ‥‥、帰りましょう?」
靴を脱ぎ、希偲の隣へと行き正座した福山。
涙が畳を濡らす。彼女の表情はそれでも変わらない。
青白い顔、銀縁の丸いメガネ、古いハードカバーの大きな本。
全てが【あのときのまま】で、忘れられなくなる。
*
『あなた様は思い出さなくていいのです。私のことなど‥‥、忘れてくださって構いません。だから、記憶を失ったとしてもその美しく豊かな感情だけは忘れないでください』
【そして僕は君の記憶から居なくなる】
(俺のことは忘れていいからどうかその笑顔よ、消えないで)
『お願いです、神様。俺との記憶なんて無くていいから彼女から‥‥俺の初恋の人から笑顔を奪わないで』
(それは何度目の初恋だろうか)
“File.13.5より”
*
あなたは再び感情が無くなる
あなたは再び笑えなくなる
あなたはまた俺のことを
《忘れてしまう》
「‥‥あなた、だあれ?」
片言の言葉はあまりにも以前と程遠く、そしてその目には無関心というもの以外何も映っていなかった。
*
「神様なんて信じない」
(だってそんなものいない)
(だって救ってくれない)
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