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File.18
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たいせつなことだから、繰り返して、繰り返して
*
「潤」
福山の名を呼んで駆け寄ったのは神谷だった。
ダイニングホールでみんなが集まってる中福山は崩れ落ち、神谷に縋るように泣いた。
「すみません‥‥、希偲様はもう‥‥」
「‥‥っ、何でだよ!前も、その前も、ずっと何度も希偲ちゃんを守ることだけ考えて生きてきたんだろう?!」
立花が福山の胸倉を掴んだ。
けど、福山は何も言わない。
ただただ、涙をこぼすばかりで何も言えないのだ。
「俺は!‥‥っ、俺だって守りたかったし、救いたかった」
あんなに愛した人は初めてだった。
立場が何度も何度も変わっても彼女の優しさは変わらなかった。
下の人間には優しく、上の人間には厳しく
自分に厳しく、他人に甘く
ずっと、まっすぐ凛々しくたっていた彼女に何も抱かないわけがなかった。
「しんちゃん、潤のこといじめないで。潤だって頑張ったんだよ」
「‥‥っ」
*
「日野くん、やっぱりまだ辛い?」
「何で?」
口を噤む立花。日野の手に覆いかぶせるように、包むように手を握る。
「だって、一つも花が咲かないから‥‥」
「‥‥っ」
皆が去って日野はゆっくりと言葉をこぼした。
涙は止まらずに、周りのものが腐敗し破壊され零れ落ちていく。
「希偲ちゃんはもう戻ってこないよ‥‥、またあの日の繰り返しだよ」
「‥‥っ、日野くん。それでも、いつかは変えれる。それは今かもしれないし、もっと先かもしれないけど‥‥。待つしかないよ‥‥」
日野のことを抱きしめながら言葉をこぼしていく立花。
日野の涙は止まらなかったが、周りにあったものはたちまち直っていき花が溢れんばかりに咲き始めた。
「希偲はあのとき約束してくれたんだ‥‥」
「え?」
*
『信じてるから』
『ありがとう』
希偲はココアに息を吹きかけて冷ましていく。
そして、ふいに目つきが変わった。まるで希偲ではないような、そんな感じ。
『大丈夫。忘れてないよ、全部。ね、しーちゃん』
『え』
声も目つきも懐かしいのは思い過ごしじゃない。
彼女はあのときのまま、時が止まっているかのようにいつ見ても何も変わってない。
初めて見たとき、前回とは真逆だけどその前のままで、また同じ歴史が待ってるんだとふいに感じ取った。
『‥‥きぃ?』
彼女は返事しない。まるで猫のような身勝手さ。
きっと、潤のことも。全て全て全て切り捨てる気なんだろう。
『ねえ、しーちゃん。今回の私の秘密教えてあげる。私はね‥‥』
*
「は?どういうこと?希偲ちゃん‥‥、じゃなくてきぃってこと?」
きぃ‥‥、彼女は、立花 日野 福山 小野 近藤の幼なじみたちの一人でだいぶ前の希偲のことだ。
彼女は当主であり、先祖返りであるがために呪いの子だと殺された。
何度も産まれてくる呪われた先祖返り。
それが本家と分家の道筋の分かれ目となったのかもしれない。
「希偲は、忘れてないけど思い出す気もないんだよ。未だに始まりの日に囚われてる」
「きぃ‥‥」
それまでは全員変わりない生活を送っていた。
産まれたときから6人一緒。老いてもずっと仲いいままで。
けど、ある日希偲は呪われた子として18で処刑され一人だけ時間軸が狂ってしまい、そして小野家と神谷家の縁談の末どちらの能力も受け継がずましてや鬼族でもない両家の間に産まれた。
彼女はそれまでの記憶が一つもなくて俺たちを兄や叔父としてしか思わなくなり、挙句拒否するかのように何度も忘れて生きていた。
そして、あるときを境に立花 日野 福山と小野 近藤の2組に別れ希偲と近藤は兄妹として産まれるようになってしまう。
その後すぐに先祖返りが各地で暗殺されていったのだ。
「もし、きぃが覚えてるならば‥‥、かはっ」
「え」
壁を貫いたそれは日野と立花の心臓を貫いた。
二人はお互いの血液を浴びる。
「慎之介!聡!」
「と、‥‥さん、逃げて‥‥」
どうして今まで忘れていたのか気がしれない。
彼らがすぐそこにいたのを。
「立花くーん、そういうのペラペラしゃべらないでくれないかなー?毎回毎回。お掃除するの大変なんだよー?」
にこにこと、笑う菅沼にゾッとした。
隣の間島は文庫本サイズの本を読んでいてこちらに見向きもしない。
「まぬがす、実際の貫いてるその蔦は俺だからね?」
「別にいいじゃん、今から俺の見せ所なんだから」
間島はそういうと、何かを引っ張るような仕草をする。
すると、その瞬間蔦が勢いよく引き抜かれた。二人の体から。
「かはっ‥‥」
「お前らどういうことだよ‥‥」
立花が二人を睨みつつ変化し、刀を抜いた。
だが、菅沼の余裕そうな目は変わらない。
「別に?僕らは【皇帝】の任務に従い君らを襲っただけだよ」
間島は本を閉ざすと、淡々と説明した。
そして、腕を大きく広げる。その動きに合わせ後ろで巨大な蔦たちが動き出す。
「おいおい、おっさん二人を忘れんなよ。ひよっこ共」
「絡まったとか言い訳無しね」
檜山が指を動かし始めると突如何かが現れた。
まるで、人形を操るかのように何かが自在に動き出す。命がそのに宿るかのように。
「狐松明(きつねたいまつ) 灰となれ」
檜山がそう言うと飛び回った青い炎が間島と菅沼を包む。
だが、突然炎が弾き出されたかのように消される。
「迦楼羅天(かるらてん) 扇 破邪の舞」
間島は緑色の葉のような扇を扇子のように閉ざすと、扇の先端を唇にあて唇だけで笑った。
「さすが、伝説のお狐様【葛の葉】様であられる」
興奮状態の間島は勢いよく扇を開いた。
そして、扇で口元を隠し発した。
「迦楼羅天 扇 愚者の舞」
扇を勢いよく仰いだ瞬間鋭い風が産まれた。
だが、その風は横ヤリを入れられ消されてしまう。
「あれれー?おかしいなー。迦楼羅天さん本気だしてないんちゃいます?消えてしもたよ?」
そこには、遊佐 喜多村 広末がいた。
皆スーツ姿だが、腰の下らへんには尻尾が生えていた。
「山田、日野と立花を別室に運べ」
「はいはーい」
広末はつむじ風をおこして立花と日野を乗せ、自分もそれに乗りこんだ。
「手当てとかしとくんで、なんかあったら呼んでください」
「待って!父さんたちが‥‥」
立花が降りようとするのを檜山が止める。
森川は鋭い目つきで敵を見ていた。
「大丈夫だよ、もりもりがまだ何もしてないでしょ」
「父さんの戦い‥‥」
(見たことない‥‥、見てみたい‥‥)
広末はにっこりと微笑むと部屋を出た。日野も立花も含めて。
「俺の戦い方なんて見なくていい。あまりにも、汚すぎる」
*
「え、間島と菅沼が‥‥?」
あの後二人は颯爽とどこかへと行ってしまったらしい
話によると、森川の力が段違い過ぎて相手にならなかったとか。
日野と立花他に怪我人が出ることなく、現在中村が手当をしている。
「中村の手当すごいよなー、傷が無くなるみたい」
「まあ、一応属性は妖精ですから」
「ねえ、確かに二人は【皇帝】って言ったの?」
手当が終わった立花に神谷が話を聞いている。
立花は大きく頷いた。神谷は考え込んでしまう。
「今の状況だと近藤‥‥、でも皇帝は神に近い存在だから‥‥」
「鬼族 族長の神鬼のことではないんですか?」
「‥‥あいつは人を襲うようなことしない。自分で手を下すよ」
「え」
神谷が大きくため息を吐くと安元が人数分のカップとポットを持ってきた。
「こっちがカモミールティで、こっちがローズマリーエキス入の紅茶。味は自分で調整しろ」
安元はそういうと、神谷の元へと行き肩に手を置いた。
神谷がその手に自分の手を被せる。
「大丈夫、小野坂はそんなことしねぇよ」
「うん、分かってる」
「小野も大丈夫だよ」
「別に心配してない」
神谷は福山がいれてくれたローズマリーの紅茶を飲む。
水面が揺れて、小さな金属音がする。
「聡、立花。さっきの話が本当なら‥‥」
「お前のこと分かってて、余計に突っぱねたんだろう」
自分に縛られて欲しくないから一一一一一。
「違う、俺は自分であいつのそばにいることを決めたんだ‥‥」
「潤さ、希偲ちゃんいなくなると途端に素がでるよね」
神谷は、カップをソーサーに置くと柔らかく笑った。
けど、福山は微妙な顔をする。
「あいつがいなきゃ仕事じゃないですから」
「ふふっ、そっか」
*
大丈夫だと思ってたんだ
また、やり直せると。
けど、違ったんだ。
ここが最後の分岐点。
『お願い、ここで生きていたい』
僕らは確かにそう願ったんだ。
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