アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
File.19
-
『君を忘れる代償に、君の記憶をも消してください』
*
みんなと解散して部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
ここには小野との思い出しかない。
徐々に2人で買い揃えた家具。
小野が気に入ったコーヒーメーカー。
神谷は水を入れ小野が気に入っていた豆をセットした。
徐々に広がっていく甘く苦い香り。
「…っ、小野くん」
ふいに溢れた涙がコーヒーカップに注がれた。
*
2007年 4月7日 土曜日
季節の変わり目。
桜が舞い散る中曉館に3組目の新しい入居者がやってきた。
2nd Floor Room1
ここが新しい自分の居場所。
「神谷!」
「鈴村、櫻井」
神谷の名を呼んだのは彼の幼なじみたち。
なかなか長身でスラリとした彼らはなかなか顔を整っていて女の子の注目の的だった。
筋肉のついてない自分と違いまあまあ筋肉もある。
「ようこそ、曉館へ」
「今日はゆっくり休め。明日マンション内とか街とか案内してやるよ」
穏やかな櫻井、賑やかな鈴村。
櫻井が穏やかなのはこうやって鈴村を守るために仕事してる時だけだが。
よく互いの家へと泊まり夜通し遊んだ。
高校まで同じ学校に通い、そして別々の道へと進んだ。
櫻井は体が弱かった鈴村を守るためにSSの資格を取ると専門の学校へと行った。
鈴村は治療に専念しつつ実家を継ぐため経営の勉強をした。
そして、神谷は……
「そういえば、神谷ってSS断ったんだって?こっちの業界で結構話流れてるよ?」
「え、まじで?」
「うん。雪族の当主様に取り入りたかったみたい」
「へー」
神谷は自分のステータスにそれほど魅力があるとは思えなかった。
結局ただのお飾りでしかない。
まるで祀られるかのようにただ家にいるだけの存在。
そんな自分に価値はないとずっと思っている。
「何で断ったんだ?」
櫻井と神谷が話し終わると唐突に鈴村が問いかけてきた。
けど、何となく分かってるんだろう。
「俺にはあいつしかいないから」
神谷はそう言うと困ったように笑った。
鈴村と櫻井はこのあと鈴村の仕事があるため行ってしまった。
荷物はほとんどない。
こちらで買い揃えるつもりだったからだ。
携帯と財布と化粧品と数冊の本。
それだけだ。
男だが化粧品は乾燥肌の自分にはなくてはならない。
他は全て置いてきた。
自分の気持ちとともに。
神谷はネガティブな思考を振り払おうと頭を振りエレベーターに乗り込んだ。
2階のボタンを押す。
ものの数秒でついてしまう。
エレベーターを出るとスーツの男が部屋の扉の前に立っていた。
まるであいつと初めて会ったときのように。
「誰…」
「初めまして、神谷浩史様。本日よりSSとしてお側に仕えさせていただきます。小野大輔と申します。」
「SSは断ったんだけど」
「はい、存じております。ですが、どうかお側に…」
「雪族の当主に取り入るため?」
「…いえ、私は神谷様にお仕えさせていただきたいのです」
小野と名乗った男はにこにこして神谷を見る。
それはまるで犬のように。
優しい声、優しい笑顔、雰囲気
小野の声が、この状況が、神谷の記憶を呼び起こす。
「SSとかいらないから」
神谷はそう言うと部屋に入った。
何も無い殺風景な部屋に足を踏み入れる。
過去のものは全て捨ててきた。
全ての記憶を消すために。
けど、あのときこの道を選ばなければ僕はこんな思いをしないですんだのかもしれない。
この後、何度もしつこく迫られた神谷は渋々SSを認めた。
そして、この先おこる事件の全ての引き金だとは知ることもなかったのだ‥‥
*
「神谷さん!にゃ、にゃんこが!!」
「え?うわっ、ひどい傷。病院連れていこ」
神谷は小野が走って連れてきた猫を見ると一目散に駐車場へと走った。
小野も猫の病状に響かないように神谷を追いかけ走る。
マンションの入口が音を立てて閉まったのはほどなくしてだった。
「なあ、孝宏」
「何でしょうか、健一様」
「‥‥もうそろそろいいだろ」
「ご判断は健一様にお任せいたします」
これがまず最初の事件になるのだった。
*
【過去の僕が後ろで笑った】
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
24 / 60