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File.20
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『届けたい?いいえ、どうか届かないで』
*
「鈴村と櫻井【曉館】を出るの?」
「あぁ、新しい入居者もたくさん来るしな」
「‥‥そっか」
三人でテラスで3時のおやつをしているときだった。
(小野もちゃんといるけど)
突然鈴村と櫻井が話を始めたのだ。
別にここに来るまでとそう変わらない。2、3ヶ月1度程度になってしまうだけの話だ。
「別に会いにくるやんか」
「うん、そうだよな」
今生の別れではないのは分かっていた。
けど、なんとなく会えないような気がして怖くなりそんな考えを打ち消そうとする。
「神谷、小野坂さんから連絡が‥‥」
「あいつともう会う気はない。もうあいつとは二度と会わないと決めたんだ」
神谷はそう言うと、カップに口をつけた。
鈴村はそれ以上何も言わず、何もしない。
報告の義務だけを全うして神谷の気持ちを尊重する。
ふいに櫻井が席を立ち、小野とどこかへ行ってしまう。
「そういえば、鈴村の嫁さんってどんな人なの?」
櫻井の前では決して聞けない話をふと聞いた。
鈴村は優しそうな顔をして笑う。
「すげえ、いい人やで。俺にはもったいない人なぐらい」
「そっか、櫻井も認めた人なんだろ?」
鈴村は神谷と合わせてた視線を反らし下を見る。
もちろん、あまり話せない内容ではあるが長年の付き合い。
聞いても大丈夫だと、判断する。
「あいつ泣きそうな顔しておめでとーって言いよんねん。こっちが泣きそうなったわ」
「そりゃ、今まで大事に育ててきた最愛の人間だからな」
櫻井の気持ちは痛いほど分かっていた。
何年もそばにいて相手より自分の方が相手のことをよく分かっていると言えるほどの仲で、尚且つ最愛の恋人だったのだから。
同じ経験をした自分にとって彼の気持ちは痛いほどに分かってしまう。
「あいつもこの縁談を勧めた一人やし、自分だけのことちゃうからな。一歩違うとこ選んだら全てがなし崩しや」
鈴村はスプーンで手遊びしながら言い訳するように話をこぼしていく。
もちろん、誰が悪いわけでもない。ただしょうがないことだったのだとしか言いようがないのだ。
「俺は櫻井側だからなんとも言えないけどさ、ただ自分を選んで欲しくなかったのは一番の気持ちだった」
鈴村が驚いたように神谷を見る。そりゃそうだろう。
恋人が自分以外の人間と結婚するのを望むと同義だ。
「‥‥何でや?愛してたのにか?」
「うん、愛してるからこそその手には自分が与えられない幸せをあげたかったんだ」
愛してるというのは自分勝手な自己犠牲だと、思う。
だって、一歩間違えれば押し付けとなり正しい選択なんてどれか分からない。まるで、それこそ崖っぷちという言葉が似合うだろう。
「あいつはほんとにすごいやつなのに、俺のSSとしてそばにいてくれた。もうそれだけでいいんだ。それ以上望む気は無い」
心の底からの本音だった。
あいつの絶望した顔も、泣きそうな顔で優しく抱きしめてくれたのもきっと一生忘れない。
けどただ、今言えるのは今の道を選んでも後悔してないってこと。
きっと、次もその次も同じことがあれば同じ選択肢を選ぶだろう。
きっと、それは‥‥
「櫻井も同じだと思うよ」
「え?」
鈴村は不思議そうな顔で神谷をのぞき込む。
神谷は楽しそうに笑って鈴村を抱きしめた。
「愛することは罪ではない。愛を隠すことの方が罪だと思うよ。例え分かってても愛してた」
鈴村の肩が震えた。声を噛みしめる音が聞こえた。
きっと最初から本人が一番辛い思いをしてる。
相手を傷つけることをわかっていて、でも自分の取り巻く環境に勝てずに取り込まれていく自分を
きっと、一番呪っているのは自分自身だ。
「俺だってわかることなんだ。賢いあいつならもっと分かってるさ」
「‥‥っ、うん。そやな」
*
加害者と被害者
対立した俺たちは
決して背を向けられなかった
【ごめんな俺達、もう終わりにしよう?】
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