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File.24
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【きっと彼女は振り返らない】
*
「未だに六人どころか男五人がみんなで揃って話したことないですよ」
小野が話し終わると神谷は青ざめた顔をしていた。
小野が少し話しすぎたかと後悔する。
「‥‥その幼なじみの女の子を殺した犯人僕知ってるかもしれない」
「え?」
突然の言葉に驚きを隠せなかった。
そして、何よりあのときの黒い感情が再び湧き上がってきそうで、でもなんとか抑える。
「あのね、」
「‥‥聞かなかったことにします。俺はあのとき何もできなかったですから何も言いません」
小野はそう言って辛そうに笑った。
その顔にはなにも知りたくないと、書いてあった。
*
その後も、別段変わりない生活を送っていた。
櫻井や鈴村の事件も特に何も進展することもなく、捜査もほぼ皆無となった頃にはもう2.3年経っていた。
そして、SS見習いとして福山を連れた立花と日野が曉館にやってきた頃にはもう最初の頃とは何もかも違う曉館になっていた。
杉田と中村、間島と菅沼、立花と日野というスリーペアが出来ていて新しいコンシェルジュの梶田がやってきてそして櫻井と鈴村がいなくなって4年が経つ頃に安元がやってきた。
「‥‥洋貴?」
「浩史‥‥か?」
約5年ぶりだった。お互い歳を重ねて老けたかもしれないが風貌はほとんど変わっていなかった。
安元とはいい思い出はほとんど皆無に等しかった。
お互い、自分のさみしさを紛らわす代替え品だったからだろう。
「神谷さん、お知り合いですか?」
「‥‥うん」
この関係に名前をつけるとしたら?
知り合いというにはあまりにも深すぎて、友人というにはあまりにもお互いを知らなさすぎた。
あの頃の優しくて嘘つきな彼はあまりにも自分に優しくて甘かった。
「新しいSSか?」
「うん。あいつが付くにはあまりにもあいつがでかくなりすぎたから」
「そうか。安元洋貴だ、よろしく」
「神谷さんのSSの小野大輔です」
小野は少し怪訝そうな顔で握手に応じた。
神谷はそんな小野に苦笑いを浮かべる。
安元との関係を言うわけもなく、ただ席についた。
言わないというよりも言えないの方が近いのだろうけど。
そして、それから一年後に鈴木と島﨑がやってきてその半年後希偲がやってきたのだ。
凛とした雰囲気、気難しそうな顔、他人に一線引いてるところはまるでかつてのあいつのようだった。
同じ鬼族だからとこんなに似るものかと、少し気分が悪くなった。やっと、忘れかけてたのにと。
でも、やっぱり全然違う人間で‥‥、でもあまりにも近かった。
*
「あのね、希偲ちゃん。小野坂昌也って知ってるよね」
「はい、もちろんです」
こんな話を彼女にするにはあまりにも酷なのかもしれない。
正直言って無関係に等しい。けど、もし小野くんが言っていた幼なじみがこの子ならば確認しなければいけない。
「僕と昌也は20年前恋人だったんだ」
希偲は少し驚くが真面目に話を聞いていた。
あまり聞いても辛いかもしれない。過去を掘り返すような話だから。
それに彼女には昔の記憶がないと言っていたから。
「いや、もっと昔からずっと何度も恋人になっては引き裂かれてを繰り返してた」
「神谷さんが聞きたいのは私が処刑されたときの話ですか?」
あまりの驚きに下げていた目線を上げ希偲を見た神谷。
落ち着いて話していく彼女は何を考えているのだろうか。
だけど、きっと彼女は辛くて悲しくてそんな過去の中生きていたんだろう。
「あのときの順子内親王は神谷さんですよね」
「‥‥うん」
彼女は、それでも笑った。あのとき同様に笑った。
性別が定まらない自分に唯一できた娘が彼女だった時もあった。
「別に恨んでませんし、あのときの人格は多分今の神谷さん自体ではないと思ってるんですが‥‥」
「どうなんだろう、わからないけどまだ力を自覚してなくてあんまり記憶がないんだ。こんな無責任なこと言って最低だと思う‥‥」
本当に最低なんだと思う。軽々しく口にすることではない。
たまにチラつく記憶に僕はずっと悩んでいた。苦しめたはずの彼女はそれでも優しく笑ってくれていたから。
「別にいいですよ。そういう運命だったんです」
声色はいつも通りで彼女は涙すら見せずに優しく笑ってくれる。そう、いつも通りに。
きっと彼女は何度も転生しては苦しんだんだろう。きっと、その内笑う事以外を‥‥
「D‥‥、小野さんはきっとそれ以上にあなたのことを愛してるから、だから絶対にこのことは秘密ですよ」
「そんなこと‥‥!」
彼女はそっと人差し指を神谷の唇にあてて首を振った。
初めて見たその表情は悲しいとか苦しいとかそんな感情の表情で、そのときわかった。きっと彼女は自分のことに何も感情が湧かないのだ。
「大丈夫、いつかきっとまた道は重なるから。今笑わなければいつ笑うの?」
「うん、そうだね。ありがとう」
ごめん、ありがとう。
難しい言葉とか、言い訳なんてしないで真っ直ぐ目を見て話すこと。
それが大切なんていつぶりに教わったのだろうか。
不吉の妖怪と言われずっと世界から遠ざけられていた自分があまりにも惨めで、そして辛くて
でも‥‥
「宮野さんからここを勧められたのは昌也様の恋人だったからですか?」
「うん、まあね。あいつが結婚してもずっと一緒にいたんだけどやっぱりダメだって家に塞ぎ込んでてそのときにまもちゃんに会う機会が会って話してたんだ」
忘れられなくて、忘れたくて
愛してはいけないのに、愛しくて
お互い立場も、歳も重ねて
何度も経験していたからわかっていたのに
けど、僕は何より忘れたかった
『彼』の存在を。
何度も自分の存在を忘れてしまう憎い彼を
何度も出会うその運命を全て
あいつには僕じゃなきゃダメだって、ずっと信じていたかった
僕は昌也じゃなきゃダメだって、ずっと思ってたのに
「別に決めなくていいんじゃないですか?」
「え?」
「運命とか、時間の流れに任すことも大事ですよ」
柔らかく笑う彼女はそれこそ審判のようだった。
決めてくれないくせに大体の流れを決めてしまう運命の審判。
なんて言うのかな、神の使いっていうの?
そんな感じの酷さと優しさ。
「うん、そうだね。ははっ。‥‥というわけでさ、僕もまもちゃんに暁館を勧められたんだ。あと、幼なじみたちが住んでたってのもあってね」
「幼なじみ‥‥ですか?」
「うん。二人の男でさ、SSと対象として生きてる。けど、ここ5.6年行方不明なんだ‥‥」
「え」
「けど、死んではいない。死んだらすぐにわかるし」
まるで先祖返りの運命を怨むかのように零される言葉。
そして、その二人を大事というのがとてもわかる響き。
けど、悲しみを孕んだその息がちょっとずつ漏れる。
「希偲ちゃんはまもちゃんと仲いいの?」
「宮野さんですか?んー、仲はいいと思います。家のこと以外では」
「家のこと以外では?」
神谷は希偲の言った言葉の意味をなんとなく気づいて顔を歪める。
希偲は分家当主だ。先祖返りで当主というのはかなりの意味があり分家に対しての圧力でもある。
お前らはその程度の人間の下にいる人間だという意味。
そして、宗家からの分家としての圧力。
分家当主で混妖の先祖返りということは宗家からの蔑みの目や言葉、分家からのやっかみを無慈悲にふりかぶされるということだ。
「普段は仲良くするんですけど、勉強や家のことになるとやはり宗家の人間だから‥‥」
「おうちの居心地悪かったの?」
「え?」
「当主が家を出るって相当のことじゃん」
「居心地は良くなかったです。けど、宗家の当主様は私にすごく優しくしてくれてましたよ。だからそこまで辛くはなかったです」
希偲は話を重たくしないようにと話している。
そんな風に感じとれたのが今の印象。
きっと、今まで酷い扱いをされてきたのだろう。
「神谷さんには教えてあげますね。私、昌也様の実子の娘‥‥孫なんです」
「え」
「ごめんなさい。私はあなたにとって何より憎むべき相手なのかもしれません」
「‥‥っ、ううんそんなこと…」
「ごめんなさい‥‥」
まさかの言葉に驚きが隠せなかった。
自分たちの時間にそんなに経ってしまったのかとそんなことばかり考えた。
「ううん。誰も悪くないよ。それが僕らの運命なんだよ」
先ほどの彼女の言葉を借りていうと、希偲は少し困った顔で笑った。
*
「谷!‥‥神谷」
「ん‥‥ぅ」
コーヒーを飲んだはずなのに寝ていたらしくソファに突っ伏していた。
というか、誰だろうか。この部屋を開けれるのは自分以外に小野とコンシェルジュの梶田くんとあとは幼なじみの2人のみだ。
けど、なんとなく懐かしい声に再び眠気に襲われた。
だけど、彼らはそこで寝かしてくれるほど優しくはないらしい。
「いつまで寝とんねん、ぼけっ」
「いっ‥‥!」
軽く頭を叩かれたのだが、寝起きの頭には結構な衝撃だった。
痛みに腹が立ってきて怒鳴ろうと振り向くと‥‥
「何すんだ、お前‥‥?!」
「今、色々大変やねんぞ!何寝てんねや、そんな暇ないで?」
「こら、鈴。人の頭叩かない」
「え?鈴と孝宏?」
そこに、立ってたのは鈴村健一と櫻井孝宏だった。
*
『大嫌いな世界に別れを告げたら仲良くみんなで還りましょう』
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