アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
File.25
-
終わりを告げる声を否定し続けた
*
「初めまして、近藤孝行当主様。私たちは先祖返りに近く遠いもの。故にあなたと同じ存在の者にございます」
「吸血鬼 櫻井孝宏」
「死神 鈴村健一 と、申します」
初めて見た彼らはとても凛としていて芯があるような感じだと思った。
彼らの瞳に迷いは一つもなかった。
「吸血鬼‥‥と、死神?」
「はい」
つむじ風が少し大きめに吹いて鈴村と櫻井の周りを取り囲む。
そして、風が消えると洋風の服装を纏った二人が立っていた。鈴村は手に大きな鎌を持っている。
「あなたの魂狩りに来ました」
鈴村が大きく鎌を振ると刃が近藤と小野のほうに飛んでいく。
すると、即座に希偲は自分の薙刀を取り刃を受け止めた。
「希偲!」
「何も知らないのに近ちゃんの命を奪わないで」
小野は近藤を連れ出そうとする。
だが、それを神谷が呼び止めた。小野が少し静止した。
「小野くん!」
「‥‥っ、近ちゃん先に逃げてて」
「大ちゃん!でも‥‥」
小野は首を振ると近藤を裏から逃がした。
そして、神谷の方へと向いた。
変化を解き、刀だけを手に持つ。
「神谷さん、少し場所を変えましょうか」
そう言って狼に完全変化すると、神谷を連れ去りどこかへと足早に去っていってしまう。
追いかけようとする福山 立花 日野を希偲が引き止めた。
「ダメだよ、あの二人は二人で話さなきゃいけないんだから」
「‥‥希偲、何で黙ってたの」
福山がそっと呟くように問う。その表情はあまりにも泣きそうだった。
それにつられて希偲も泣きそうになる。
けど、目線は逸らさず真っ直ぐ見る。
「私は近ちゃんを還す義務があるの」
希偲はそれだけ言うと近藤を追いかけるように行ってしまった。
もちろん、三人もあとを追う。
残された者も追いかけようとするが、屋敷の人間と思われる者達に囲まれる。
「孝行様たちの後は追わせません」
代表して言葉を放ったのは花澤だった。
それに対して言葉を返したのは鈴木。
空気が少しピリッとする。
「花澤、お前ここの人間‥‥先祖返りだったんだな」
「寺島くんもだよ」
「最初から味方はいなかったわけね」
鈴木はそういうと変化をする。その姿は神位の衣をまとっていた。
腰には日本刀と思しきものが携えられている。
そして、その後ろに信長が立つ。
「僕も加勢します、たつさん」
笑顔で言うと、信長も変化する。
長い猫の尾が何本も絡み合うように動き回る。
瞳も猫に近いものになった。手にはキセルを持っている。
「龍神(りゅうじん) 鈴木達央」
「猫神(ねこがみ) 島﨑信長」
「「いざ、推して参る」」
それからは一瞬で花澤以外はあっさりと倒されていった。
あまりのオーラに全員が立ち尽くす。
花澤は腰を抜かしたのか座り込んでしまった。
「別にクラスメイトを傷つけたりしねえよ」
「たつさん、姐さん追いかけましょう」
二人はそういうと、希偲のあとを追いかける。
他も各々のために散り散りになっていく。
*
「小野くん」
降ろされたのは先ほどの屋敷からずっと離れたところだった。
人間に戻った小野はずっと神谷に背を向けている。
「神谷さん、何で来たんですか」
「そんなの分かんないよ」
小野は、俯いたまま神谷の方へと振り向いた。
その手には刀が握られていてその鋒は神谷に真っ直ぐと向かっていた。
神谷も白夜叉へと変化している。
「それは嘘ですよね。あなたは殺されに来たんでしょう?俺や希偲に」
小野の歪めた顔があまりにも苦しそうで、いつものように抱きしめそうになった。
刀を握った手は微かに震えていた。
「‥‥そうだよ。君たちが決別した日、あのとき君たちを引き離したのは僕だ」
目は口ほどに物を言うとはまさに今だろう。
故に神谷は自分は君らに報復されるべきだと目が雄弁に語る。
「希偲ちゃんを殺したのは‥‥」
「聞きたくないと言ったでしょう?!」
今までずっと温厚だった小野が初めて荒れる姿を見た。
叫ぶように言葉を放つ小野は苦痛に顔を歪め、神谷に憎しみの目を向けた。
心臓がぎゅっと握られたような苦しさにもがきそうになる。
「俺は‥‥、俺はあんたを愛してるんだよ!なのに‥‥」
きっと、彼は近藤たちの思いと自分の想いに板挟みにされ苦しみもがいたのだろう。
今までの自分以上に、ずっと。ずっと、ずっと、ずっと。
「うん、知ってるよ」
「あんたを嫌いになんてなれなかった、‥‥あんたを憎しみたくなかったのに!」
小野はそういうと、刀を大きく振った。
生まれた刃を神谷は何もせず待ち構える。
けど、それは神谷に当たることなく消え去った。
「小野くん?」
神谷に向かって歩き出した小野は刀をしまった。
そして、神谷を抱きしめた。
「愛してるよ、神谷さん」
「小野く‥‥」
そして、思いきり押し倒して小野は神谷の上にのしかかった。
再び刀を抜くと神谷の顔の横に突き刺す。
刃が微かに触れて頬の皮膚が切れて血が伝っていく。
「今ここであんたを殺しても先祖返りである限り俺たちは産まれてくる」
だけど‥‥、
小野はおかしくなかったのように口角をあげた。
そして、完全に獣化した。
「さよなら、神谷さん」
神谷が目を閉じる寸前に涙がこぼれ落ちてきた気がした。
*
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 60