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やっと始まるプロローグ
*
彼はずるい。彼女は可哀想で、じゃあ自分は何?
まわりに誰もいなくてでもある日突然巻き込んでくれたリーダーは俺に相方をくれた。けど、彼はずっと優しくて少し意地悪でずっとそばにいたやつを見ていた。
彼からの視線は未だにない。何もない。劣等感、嫉妬、苦しみ、藻掻くことしか知らない自分はどうしたらいいんだろうか。
「まじぃ、久しぶり」
「こんなときに敵と会っていいの?」
「そっちこそ」
彼女は可哀想。彼はずるくて、じゃあ残ったのは何?
優しくて、ずっと見守ってくれていた姉のような存在の彼女は家に囚われ、過去に囚われ、弟たちに囚われた。お互い絶対に叶わないこの気持ちも未来も希望もいっそ捨てられたらと……
きっと、彼女が一番嘘つきで、傷つきやすい。他人を評価するのも寄せ付けないのも自己防衛に過ぎない。
「ねえ、姉さん」
「何」
「やっぱり、俺はすがぽんを愛してるよ」
けど、俺もれっきとした嘘つきだ。けど、彼女前ではそれも無意味だと分かってるからこその真実。
「私はそれでいいと思うよ。きっと、ひーちゃんの気持ちとかまじぃの気持ちとか、しーちゃんの気持ちとか全部ひっくるめて人生なんだよ。だけど、私たちは死ぬまでが人の何十倍何百倍もあるんだから」
"最後は後悔しちゃダメだよ"
彼女はそう言って笑った。誰よりもみんなを愛して誰よりも苦しんだ彼女はそれでも笑った。
*
「希偲!どこ行ってたの」
ダイニングホールに入ると幼なじみの5人が待ち構えていた。心配そうな顔に何だか申し訳なくなって、けど嬉しくて。
「一人で外出しちゃダメだよ、今何があるかわからないのに」
「希偲は女の子なんだよ?!」
そして、同時に誇らしくもあった。自分が守るべき存在は素晴らしい人間に育ってくれたと。あれから、100年が過ぎ1000年が過ぎた。始まりの日はこんなにも遠ざかったのに今でもこんなにも記憶が鮮明だ。
「みんな、ごめんね。ありがとう」
驚いた顔をした五人。何となく察してそれでも笑った。希偲だけが苦しまないように。一人だけ笑わないように。
「ばーか、今さらだろ」
「希偲は俺らに守られてたらいいんだよ」
立花が意地悪そうに笑って、日野が希偲の頭を撫でる。
「ずっと隣にいてくれたらいいよ!」
「息抜きしても大丈夫だよ」
小野が手を握って、近藤が楽しそうに笑った。
そして、最後に……
「大丈夫だよ、ずっとちゃんと傍にいるから」
抱きしめてくれた体温はとても温かくて心臓をまるで握ったようで。宝物はすぐそばにある。大丈夫だ。だって大丈夫だと、笑えるから。
「もう少しで元通りだよ」
誰にも聞こえないように。まるで呪われたかのように引きずってきた過去は楽しそうに笑う。けど、そんなの気にしない。そんなの見ないふり。みんなのためにと決めたこの命は……
「希偲、部屋に戻ろう」
「.....うん」
『笑え、泣くな、嘘を吐け』
そう言った男はきっともう少しで迎えに来る。
(私を殺すために。自分の愛する人のために。全て消すだろう)
彼は、天の使い。命を運ぶ世界で一人の使者(死者)だ。
*
「すがぽん、さっきの人誰?」
「俺の親友だよ。西洋タイプの先祖返りで【天使】別称LifeBroker」
『あいつは先祖返りは殺せる唯一の人物だ』
そして、自分と同じ過去の記憶を全て持つ人間。あの日起きたことも全て知っている唯一の人物だ。
「すがぽんはまだたちのこと好きなの」
「へっ?」
突然の質問に間抜けな返答をしてしまう。間島の顔を見ると至って真面目な顔で、それどころか今にも泣きそうな顔をしていた。
「お願い、答えて」
「.....うん」
正直言って自分でもどんな気持ちを今彼に対して抱いているか分からなかった。でも、目の前に立っている男に対しての気持ちは確立しているのに
「そっか」
だけど、今はこの気持ちは誰にも教えない。最後まで終えられたら何度目かの告白をしよう。同じ歴史をを辿ってきた僕だけの最初で最期の告白。
*
「天使なのにLifeBrokerとはひどいあだ名だと思わない?安元くん」
「あぁ、そうだな」
「素っ気ない返事だな」
にっこりと笑ってこちらを見る男は天使というよりも悪魔のようだ。きっと、菅沼のほうが天使という言葉がぴったりなのかも知れない。
「また、菅沼のことイジメてきたのか」
「イジメてないよー。いい加減俺にすれば?って言っただけ」
何百年も片想いしてきたこいつの気持ちが分からんでもないが分かりきれないことが多々ある。と、言っても彼は彼なり考えているのだろう。自分の愛する友がどうやったら幸せになれるのかを。
「あと少しで10人の再会だね。楽しみ」
「男衆はいいとしてあいつの精神状態だな」
「大丈夫だよ、俺らの大事な幼なじみは俺たちよりも遥かに強い」
そう言って、金髪の悪魔は笑った。彼女に近い力を持ち彼女と同じ過去を抱え彼女のように誰かをひたむきに愛してる。
そして、彼らは笑い続ける。苦しいのに辛いのに、死にたいほど追い込まれてもみんなのために笑い自分を殺し相手を消す。
「バカかお前は。俺たち10人で最もメンタル弱いのはあいつとお前だよ」
だけど、二人よりも八人の方が余程二人のことを分かっている、逆も然り。笑い続ける二人が誰よりも強く誰よりも弱いことなんて分かりきっている。
「うるさいなぁ、そんなことあるわけないでしょ」
いつだって、弱さを突きつけられると逃げる子供たちは今日も逃げる。意味が無いことなんて俺たちはよく知っている。けど、それが二人にとって唯一の逃げ道なら敢えて作ってやる。別に逃げたっていい。いつだって。いっそ、俺たちを捨てても。
(お前らが例え逃げたって誰も責めないよ)
自責の念にかられ今でも苦しんでる二人。幼いまま大人になれと無理矢理押し付けられ子供のままでいることができなくなった可哀想な俺たちの仲間。あの日、真っ赤な世界で振り返らなかった二人は今も無理矢理先頭に立って指揮する。
*
死ぬ間際そばにいたいとは言わないけれど、最期に想い出すのはどうか
『私』
『俺』
を忘れないで
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