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開戦を告げる鐘は嫌という程鳴り響いて
*
「おはよう中村」
目覚めれば希偲はもう既にいなくて目を開けると杉田が優しそうに笑っていた。体にはもうどこにも痣はなくてもう発症する心配もないらしい。ただただ抱きしめた。腕の中にある体温にひどく安心して酷く涙が出た。
「……っ、おはよ杉田」
いつか終わる命、でも再び芽生える命、だけどいつか芽生えなくなる命。気づきもしなかった傲慢な自分はいつか来る別れの日を初めて意識した。それはいつになるか分からないけど……。
すると、突然何度もインターホンが押されて部屋中におとが響き渡った。
「はいはい、誰……」
「杉田起きてるか?!」
扉の向こうには小野坂と希偲が立っていて息が上がっていた。
中村は急いで施錠を外すと杉田をベッドから起き上がらせ服を投げた。
「菅沼たちがこっちに向かってくると情報が入った。杉田には中村、日野たちを連れて森川の家に行って欲しい」
「これお守りです。多少ですが、鬼気が入ってます」
四人はエレベーターに乗ると一階へと向かった。ダイニングホールに全員が集まっていて深刻な顔をしていた。
「杉田くん、二人のことお願いね」
「はい、兄さん。兄さんも気をつけてくださいね」
二人が話していると檜山と森川が入ってきた。檜山だけが既に変化をしている。杉田ら三人は檜山と森川組の他の仲間ともに森川邸へと向かうことになった。
「しんちゃん、気をつけてね」
「うん、日野くんも気をつけて。父さんよろしくお願いします」
「あぁ、気をつけろよ」
四人が行くと希偲が口を開いた。皆それに身構える。
「私と近藤、立花、小野、福山の五人は菅沼と間島、そして黒幕を迎え撃ちます。皆さんは周りの方の逃走補助や保護をお願いします」
「希偲ちゃん、ダメだよ。五人だけじゃ……」
「神谷さん、私は黒幕の存在をずっと前から知っていました。ごめんなさい」
希偲がそう言うと五人は妖化する。青い巫女装束の赤鬼、白い神主姿の悟、黒い和服の人狼、白い和装の妖狐。そして、赤い神位装束の青鬼。
「では、お先に失礼します」
五人はそう言ってダイニングホールを出ていった。
神谷は目を逸らす小野坂の腕をつかんだ。そこに不自然にいない誰かが黒幕だと何となく気づいたから。
「みんなあいつが黒幕っていつから知ってた」
「前の世からだ。お前には言えなかった」
生まれ変わったら言おうと思っていた。だが、それは無理だった。転生して再会すると彼はもう既に神谷にとって信頼している人間だったから。
その上自分が誰より彼の愛する人を傷つけた相手であるから余計に。
「黒幕は【 】だ」
*
「闘いが始まる前にみんなに伝えたいことがあるの」
まずは、ごめんね。私の勝手に巻き込んで。
次に、ごめんね。みんなに嘘を吐いていて。
三つ目に、ありがとう。ずっと側にいてくれて。
最後にさようなら。大丈夫、ちゃんと元の7人と2人に戻すからね。
「希偲、何言って……」
「少し昔話をしようか。九人で」
「え」
振り向いた希偲の背後には菅沼、間島、そして安元ともう一人男が立っていた。
彼らはそれぞれ正装をして何もせずただ立っていた。
「きっとDとしーちゃんと潤は覚えてないよね」
じゅん、たち、日野ちゃま、近ちゃん、D、すがぽん、まじぃ、あんげん、しょーろー、きぃ
初めての人生では前者七名と後者三名が幼なじみとして、一部兄弟として生きていた少し前の話。
「まずは、私と潤が双子だと言う嘘から紐解いて行こうか」
*
「なあ、小野坂。何で隠してたんだ」
「お前があいつを殺そうとしても意味が無いんだ。希偲じゃなきゃ」
小野坂はそう言うと鬼化する。金の羽織が歩く度になびいていくのを何度見ただろうか。みんなの前に立つ彼を愛して傷ついて何度も同じことの繰り返し。
「俺たちも少し昔話をしないか。お前が忘れている過去を」
*
解き放たれた過去の記憶は止まった歯車を回していく。
一人と一人と一人と、それから七人と二人。絡み合って破壊された歯車を何百年もの時間をかけて修復した。
もう一度だけやり直すチャンスが欲しいとみんなが願って。
笑うことを忘れた者、泣くことを忘れた者、怒ることを忘れた者、愛する者を忘れた者、愛した記憶を忘れた者。
無くしたのは彼じゃなくて自分。笑えなくなったのも泣けなくなったのも怒れなくなったのも全部自分。
「龍神の先祖返り 鈴木達央さんですね」
「誰だ。」
「松岡禎丞と申します、無礼で申し訳ございませんが死んでください」
*
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