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毒入りのバースデーケーキ。(僕達の生まれた意味)
*
西暦800年前後
「姉上様」
「久義、お入りなさい」
「はい、姉上様」
まだ、生業として巫女や神位主(神主)などが大きく繁栄していた頃。実際に妖怪が存在しており浄化などして生きていた。
(現代ではこの地位にいた者は皆先祖返りだと考えている)
その中でも鬼城(きじょう)家は最も力を持っており巫女、神位主の最高地位に存在していた。
鬼城は各々が独自の名字を持っており同じ血がかよっていても馴れ合うことは無かった。特にこの時既に本家と分家が確立されていた。
本家 当主 金鬼 巫女 【西彼杵 希偲】
鬼城家で最も浄化の才能を持っており本家の純なる血族として14という歳で当主を継いだ天才肌。
それに対して本家の出来損ないと言われた弟が二人おり、片方は分家の当主へ、片方は本家の神位長へと育っていた。
というのは、周りからの目で内情は全くもって違っていた。
出来損ないに見せかけた偽り。あまりの多大なる力によって本人が制御出来ないため希偲が封印していると言ったのものだった。ただ、その封印も簡単に出来るわけでもないため希偲の才能も事実であるわけだが.....
「いつになったら、自分で力を制御する気?」
「.....相殺なんて俺には無理だよ」
「バカね。あんた達は私より力あるんだから.....」
背中へと印を描き力を自分の体に移していく。本来なら正力である力を無理矢理うばっているのだから体に良くない。弟二人が互いに力を相殺してくれれば力の消費だけで済むため、あとは体力の補助だけで済む。
「そういえば、姉さん婚儀の日決まったんですよね。結局どちらに.....」
「決まったよ。ちょうど一月後の今日に.....」
本家 銀鬼 神位主 【菅沼 久義】
希偲の弟。力があるのは本人の他に姉の希偲、双子の弟、父のみである。力が大きすぎるため希偲に頼っている。
幼なじみで付き人(SS)の立花慎之介と三浦祥朗以外に他人と話したことはなく人生の殆どを本家で過ごしている。
弟は年に一度会うかどうかでほとんど記憶はない。
「祥朗と結婚する」
「.....おめでとう」
めでたいことではないのは誰よりも分かっている。本人たちの意思は一切関係なく父が選んだ人間と結婚するためだけの人生。ただ、彼女はそれでもいいと言って弟たちを守る。
『力を制御出来ない出来損ないなどいらん、殺せ。鬼城家の恥だ』
初めて父にそう言われた日唯一守ってくれたのは姉だった。同腹の姉は自分の人生の自由の代わりに弟たちを自分にくれと、自分に管轄させてくれと言って二人を助けた。
どれだけ辛い仕事も、周りからの目も全て黙ってこなしていた。
『私の唯一の肉親です。どうか、私にこの二人を守らせてください』
常人の五倍の力を元々持っていた二人から力を自分に移すという事は大きな力が二人から希偲に移っただけ。結局苦しんでいる人間が変わっただけ。それでも、逃げ場のない幼子たちは唯一の逃げ道を辿っていく。
「姫様、ここに久義はいないか.....」
「慎之介、今力の移動が終わったところだよ。ほら、さっさと立って。私は今から分家に行くから」
「希偲様、この度はご婚姻おめでとうございます。付き人総員からお祝い申し上げます」
立ち上がった希偲は振り返ると、笑顔で言葉を返した。
【ありがとう】
*
「守人隊長殿、この度はご婚姻おめでとうございます」
「やめろ、洋貴」
「嬉しくないのか?」
揶揄してくる幼なじみは目の前で楽しそうに笑っている。何がそんなに嬉しいのか。自分が愛した人間が幼なじみと結婚するというのに。
「嬉しいよ」
「あら、未来の夫は嘘吐きなのね」
そこに立っていたのは正しく未来の妻だった。
付き人を一人もつけず、何度も出歩き彼女には散々苦労をさせられた。だが、二回だけ彼女に付いていこうと決めた場面があった。一度目は14という齢にして覚悟を決め当主になったということ。そして、二度目は幼いながら弟を守るために荒くれ者の守人たちを従わせたこと。
「姫様!また、一人で何を.....」
「さっき、しーちゃんが久義を迎えに来てたよ」
「あいつが皇子殿の専属守人となりましたからね」
「ふーん、いいの?久義のこと好きなくせに」
流し目で不敵に笑う彼女はあの幼かった頃とは全然違い一族を担う巫女として、当主として育った。今や弟たちも立派に育っている。
「希偲、俺はお前の夫になる。だから、その感情は.....」
「好きな人がいるのに結ばれないなんて難儀だよね。私なら駆け落ちするわ」
「あのなぁ.....」
とは言っても、たかだか四年の歳月。されど、四年の歳月。みんなが変わっていくには十分な時間だった。一方的な片想いと結ばれない想いは一方通行のまま返ってこない。それなら、もう諦めるしかないだろう。
「あのクソジジイが祥朗と私の結婚決めなかったら.....」
「誰がクソジジイだ?希偲」
「げっ、おじい様」
希偲の後ろに立っていたのは現在は隠居をした前当主様であり希偲たちの祖父だった。
本家 前当主 先代金鬼 神位主 【小野坂 昌也】
彼もまた14で当主となり16で父親になった。30で引退し現在51歳で隠居生活をしている。
だが、今でも現役時と変わりなく威厳を発揮している。そのせいか安元も三浦も一瞬で膝をついた。
「18でやっと結婚か。俺なんて16でお前の父が.....」
「はいはい、それは一昨日も聞いたから」
「二人の力はコントロール出来そうか?」
「多分無理だね。あと、力移すにしてもそれなりの巫女や神位主じゃなければ力の多さで死ぬよ」
大きすぎる力は時に毒となる。それは正に今だった。弟たちの力は分配して移すことは出来ない。本人の体力を削るためにそれなりの力を保有していなければ無理だ。力を受け取りつつ力を送り体力を与える。そして、なおかつ自分も理性を保たなければいけない。
「そろそろ分家に行ってくるから。洋貴と祥朗またね」
「希偲、分家になど行かずにあいつを呼べば.....」
「あの引きこもりかつ貧弱もやしっ子が本家まで来た時点で体力無くなって死ぬよ」
そう言って希偲は颯爽と歩いて行った。
*
「当主様!」
「分家 当主の所へと案内して」
もちろん、分家は誰も何も知らないから単純な定期会議と伝えている。分家は本家 初代当主の兄弟が代々仕切っていたが先代に兄弟がうまれなかったためずっと放ったらかしにされていた。そうなるともちろん内情はボロボロ。結局二人目の弟を泣く泣く分家の当主としたのだ。
「お久しぶりです、姉上様」
「体調はどう?」
「まあまあいいですよ」
彼は生まれつき体が弱く、その上巨大な力がコントロール出来ないためほとんど寝たきりだ。
ただ、その見た目と相反してぶっきらぼうと言うか大人しくない。
「また、屋敷抜け出して倒れたって?バカだね」
「散歩しようとしただけですよ」
「そういうことにしといてあげる。ほら、うつ伏せになって」
彼らは力を吸い取るスポンジがけして大きいわけではない。
溢れるほどの力があって、それがどんどん零れていき体を蝕んでいる。それに反して自分はあまりにもささやかな力に反してスポンジが大きすぎる。だからこそ、二人の力を受け止められるのだが.....
「はい、終わり。安静にしてなきゃダメだよ」
「姉さん。ご婚姻おめでとうございます」
「.....ありがとう」
当主である二人だけが知ってる話。婚姻が済んで子供が出来て、そしてその先に幸せはない。
私たち三人に母はいない。だけど、真実を知るのは祖父を含め三人のみ。
「.....できれば、して欲しくないよ」
「まだ時間はあるよ、大丈夫。それまでに力を.....」
「俺が代わりに.....」
福山が言葉を続けようとした瞬間平手がとんだ。赤くなる右の頬はじわじわと痛みを広げる。
希偲は苦しみと悲しみの間でもがいているような表情をしていた。
「もう二度とそんなこと言わないで」
幼くして自分たちを守るため自分を殺した姉は再び自らの人生(みち)を無理矢理止めようとする。
貧弱で迷惑の塊の自分が代わりになれればどんなにいいかと、何度も思った。
「潤は分家当主で久義は本家当主。ちゃんと二人で助け合って」
そう言って立ち上がり振り向きざまに言った姉の表情は外からの光でよく見えなかった。
*
「鬼城家 本家 当主 西彼杵希偲様、鬼城家専属 守人隊長 三浦祥朗様 この度のご婚姻心より祝福申し上げます」
「分家 当主 福山潤」
「本家 神位主 菅沼久義」
盃に注がれた酒を飲み干す。最初で最後の齢18になった翌日式が執り行われた。やんや騒がれる中主役は笑ったままで動かない。まるで、それは人形のように。
「ありがとう、二人とも」
希偲は二人にそう言うと来客のかた達と話を始め侍女とともに場所を移動する。
ほどなくして、福山も当主として挨拶へ回り始め三浦と菅沼は息抜きと称して部屋を出て少し離れた縁側へと腰掛ける。
「義兄さんと呼ばせてもらいますね、三浦くん」
「やめてください、久義様」
お猪口に注がれた酒を飲む。春が来ようとする合図が少しずつ咲き乱れる。あの日々に戻れたらと願う人間がどれだけいるだろうか。愛する人への思いが大きすぎて苦しくてもうどうしたらいいのか分からない。
「本当におめでとう。姉上の相手が三浦くんで良かったよ」
「久義様は正室をお迎えしないのですか?」
「相手がいないよ」
初めてじゃないと、その初恋にデジャヴを感じて菅沼のほうへ目線を移した。いつの日かもっと昔俺は今のように目の前に恋焦がれていた。自分を見ない彼へとこの胸に燻る火を永遠燃やしていた。そう確信した瞬間、自分はきっと何度でも恋を彼にするのだろうと思った。例え生まれ変わっても。
「ひさよ.....」
「なあ、祥朗。俺はいつまで隠したらいいんだろう」
困った顔をした彼に何も言えずただただ酒を呷った。きっと、彼は生まれて物心ついた頃には記憶があることに気づいていたのだろう。だけど、それに目をそらし続けて来たのだ。
「久義兄さん、三浦さん、慎之介と姉上様が呼んでたぞ」
「まじか、じゃあ行くか」
立ち上がると、菅沼が手を出すもんだからいつもの癖で掴む。そして、引っ張り上げた。まるで、その行為が当たり前かのように。
*
「姉上様、失礼します」
「久義、潤。座ってちょうだい」
慎之介の隣には三人の男が並んでいた。一番端には安元も座っていた。ふいに、希偲と目が合って促されるように隣へと腰を下ろした。
「立花慎之介を筆頭に今日からあなたたちの守人となる四名よ」
「俺が代表して紹介させていただきます。俺の隣から日野聡、間島淳司、近藤孝行だ」
三人は何も言わず深々と礼をする。そして、話を続けようとすると突然大きな音を立てて襖が開けられた。金色の髪に黒の神位主衣装を纏った男が仁王立ちして立っていた。
「姉貴、婚儀おめでとさん。ところで、近ちゃんが俺の守人から外されたって聞いたんだけどどういうこと?」
「大ちゃ.....、じゃなくて大輔様この前その話を.....」
「大輔は強いでしょ。二人はまだまだだから.....」
「じゃあ、神位長やめる。それか家出てくわ」
本家 神位長 金狼 神位主 【小野 大輔】
希偲たち姉弟とは腹違いの姉弟に当たる。気性が荒く近藤孝行にのみ心を開いている節がある。力のコントロールに関しては希偲の次に才能があり、男だったため本家 当主の最有力候補だったが自ら断るなど謎の部分がある。
「姉上、俺は慎之介だけで大丈夫ですから潤に二人をつけて大輔に近藤くんを.....」
「いつまでいい子ちゃんしてんの?久義。力のコントロールもまだ.....」
「大輔!いい加減になさい」
希偲はそう言って立ち上がり小野の前へと立つ。身構える小野に希偲は両側から思い切り手のひらで頬を打ち付けてやった。痛みに声を上げる小野に希偲は楽しそうににやりと笑った。
「久義の言った形で構わないけど、何かあったら大輔が二人のこと守ってあげてね。数ヶ月でもお兄ちゃんなんだから」
「あんたのことは実力ともに姉として認めるがこいつらは兄弟として認められないな」
「でも、大輔は守ってくれるよね」
希偲がそっと耳打ちすると大輔は舌打ちをして部屋を出ていった。ほどなくして希偲も客人から呼ばれていると侍女から連絡が来て部屋を出ていった。
「久義様、何かあったら言ってください。微力であれお助けします」
三浦はそう言うと、部屋を出て襖を閉めようとする。が、それを立花が呼び止めた。
「三浦さん、もうあんたは守人じゃない。横槍入れないでもらえますか?」
「主を守るために命を賭す。それが守人だ。お前は主の為に不安要素を消すことをいつまでもビビってるお子ちゃまだろ」
三浦は振り向きもせずそう言って襖を閉めた。
自分でもそんなこと分かっているのだ。自分が何も出来ない事くらいは。それでも、主を振り向かすことに必死になって全て裏目に出てしまう。
(それでも、好きなんだよ。例え.....)
「もう何も出来なくても」
「一生俺を見なくても」
このときからそうなのかもしれない。自分たちは愛する者とは一生結ばれない運命なのかもしれない。誰が言ったか知れぬ言葉がいまは自分たちにピッタリであまりにもお似合いで涙が出そうになった。
『初恋は実らないものだ』
*
二年後
「僕が本家 当主というのはどういうことですか」
「先代 当主である希偲様はお亡くなりになられました」
『かごめ かごめ 籠(加護)の中の鳥は(鳥居) いついつ出逢う(出遣る) 夜明けの晩に 鶴と亀が 滑った』
「後ろの正面 だあれ?」
1才半の幼子は父の腕に抱かれていたにも関わらず、新しき道へと進められる。その父さえももう跡形もなくなってしまった。
抱かされた幼子は女の子と男の子の姉弟だった。
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