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嘘つきの悟と戦わない狼と戦おうとする鬼の話
*
「また潤に負けたの?大ちゃん」
「小野が弱すぎんだよ」
「潤の筋肉量がおかしいんだよ!」
京都の山の中にある和の屋敷の庭。竹刀で戦う彼らはいつまで経っても全勝と全敗のままだ。
それでも、何度でも向かっていく小野には屋敷の人間全員が尊敬の意を持っている。
「あ、大ちゃんと潤さ『曉館』の入居決まったよ」
「は?」
「はぁ?!何考えてんの?近ちゃんはどうするの?」
縁側に立っていた近藤の元へと走る小野と福山。近藤は困ったように笑うと縁側に腰を下ろす。
縁側に少し高さがあるため座っていても近藤と二人の視線は違わない。
「俺は悟だから屋敷の外には出れないしここにいるよ」
「だったら、俺もここにいる」
そう言い切った小野。だけど、近藤は何も言わず目を見るだけだ。本当は小野も分かっている。人生の2/3はここで過ごした。いや、それ以上と言っても過言ではない。
「くそっ.....、分かったよ」
「ありがとう。.....潤は?」
「曉館に行って何するの?」
「とあるお嬢様のSSだよ。もちろん、大ちゃんも」
近藤は二人に書類を渡した。そこには曉館のこと、対象のプロフィールが入念に調べられ記載されていた。
「別に俺はいいよ。楽しそうだし、兄さんもいるし」
「やればいいんだろ」
「うん、二人とも頑張ってね」
*
「Dは随分前に戦うことをやめたぞ」
「そうだね」
小さな灯の中で近藤と福山は盃を交わす。広げられた膨大な情報量は彼らの一部。
この未来もきっと決まってたのだろうと思うと何だか楽しい。
「狼と雪女の組み合わせだよ?例え時間が過ぎようと歴史は消えない」
「あの日一度神谷さんは死んだはずだった。だけど、誰かの命が代わりに消えたから生き返った。もしくは時間が巻き戻った」
だけど、その誰かは思い出せない。確かに知っていたはずなのに。よく笑っていたその人は俺たちのために.....
その俺たちも自分たち三人以外のことは何も思い出せない。
「つか、俺が担当する人見たことないんだけど」
「あぁ、彼女は今まで家から出たことがないらしい。良家のお嬢様だよ」
もう一度書類を見ると写真にすら驚いていたのかやや俯き気味で顔がよく見えなかった。
「月末には顔見せに来るよ」
「うん、ありがとう」
満月が浮かび上がる夜空は雲がかかっていて月明かりすら遮っていた。再び福山が盃を傾けると近藤が注いでいく。
「じゃあ、再出発に乾杯」
*
「何階?」
「俺は二階」
今日から毎日スーツで過ごしていく。この最近和服だったせいか何だか変な感じがする。そして、今日初めて会う彼女の元へ今から行くのだがなぜだか凄く楽しみだった。もちろん、緊張はしているのだが。
「初めまして、お嬢様。本日よりあなた様に仕えさせていただきます、福山潤です」
彼女は振り向くとこちらを見て目を見開いた。そして、硬直する。福山は跪いて見上げると彼女は困った顔をして涙を零した。
「お嬢様?!」
「.....ごめんなさい、ずっと会いたかった」
彼女はそう言うと、優しく笑った。いつも通りの笑顔で。
(.....いつも通り?)
*
「こんにちは、神谷様。本日より仕えさせていただきます、小野大輔です」
「.....っ!」
神谷は小野を見るなりぽろぽろと涙を零した。何でかわからない小野は慌てて神谷の涙を拭う。そして、神谷をそっと抱きしめた。
「お、小野さん?」
「あ、あの、何で泣いてるか分かんないんですけど元気出してください」
神谷はキョトンとしてからすぐに吹き出して笑い始めた。そんな神谷を見て小野は困った顔をして神谷を見つめる。神谷はもう一回笑うと手を差し出した。
「これからよろしくね、小野くん」
「は、はい!」
*
縁側にぽつんと座る近藤。今日からはこの大きな屋敷に誰もいない。使用人さえも全員暇を出した。見えるのは森だけで何も無い。彼らがいないだけで自分の世界はこんなにも殺風景だ。
「あーあ、暇だな」
「よう、玄関隙だらけで無用心だな」
「こんなとこ誰も来ないよ、君みたいな物好きじゃないと」
そう言って、彼は笑った。
*
守ることを決めた狼と今までを知る鬼と嘘をつけなかった悟
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