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【セキチク】 花言葉:あなたが嫌いです
嫌いと嫌いと好きと嫌いと。
*
いま思えば、あのとき苦しんだのは自分より彼だったのだろうか。考え込んでしまうのは自分の悪い癖だと自負しているがやはり治らないようだ。
「久義様、そろそろお休みになってください。また体調崩しますよ」
「まじぃ、何でそんなに他人行儀なの?」
何度も側にいた彼は幼なじみで兄弟も同然だ。にも、関わらず主と従者の関係だからか敬語を崩してくれない。いつでもポーカーフェイスで笑ってくれもしない。
「久義様、それは私がSSであなたが.....」
「そんなの聞きたいわけじゃない。」
鏡越しに目を合わせたがすぐに逸らされた。鬼族の当主になる前からずっといたのにこんなにも彼がわからなくて辛くなった。すると、ドアの開閉音がして三浦が入ってきた。
「久義、明日本家で会合が決まった。潤様が曉館に入居されるそうだ」
「そっか、わかった」
三浦と菅沼が話をしているといつの間にか間島が部屋を出て行った。菅沼が追いかけようとするが三浦に腕を掴まれ引き止められる。
「三浦くん、離して」
「間島に無駄な期待させるのやめたら?可哀想だろ」
「.....今回潤が担当するのは俺の婚約者だ。だけど、本家は体が弱い俺に変わって潤を当主にしようとしてる。だから、俺は潤に彼女を任せた」
菅沼は三浦の手を振り払うと駆け出した。今自分で音にした言葉は本当のことだった。いくつもの薬を服用して立っているのが精々だとかザラにあるこの人生で祝福されるわけがなかった。
「まじぃ」
「すがぽん、.....じゃなくて久義様どうなさいましたか?」
間島の部屋のインターホンを鳴らすと出てきた間島は驚いた顔をしていた。いつの間にかこんなにも彼と遠くなってしまった。何故だろうか。
「ねぇ、まじぃ」
「何ですか」
言葉よりも先に手が出た。首に手を回してそれから彼の唇に自分の唇を合わせた。驚く彼は引き離そうとするけどそうはさせまいとしがみつく。
「.....っ、何してんだよお前!」
離れると目の前には怒った顔の彼がいて心が傷んだ。こんなにも自分は間島のことが好きなのに。
そのとき初めて気づいた。無理矢理Kissしておいてなんだが自分は彼のことを、間島のことを好きなのだと。
「まじぃは俺のこと嫌い?」
視界がぼやけて、頬に伝った温かいもので涙が零れているのがわかった。俯いて手の甲で涙を拭うけど涙は止まってくれない。
「嫌いだったらずっと一緒にいない。だけど、お前は.....」
「多分もう少ししたら当主は潤になる。何もなくなる俺は誰が引き取ってくれるの?」
すると、まじぃは俺を抱きしめて囁いた。そして、真っ赤な顔をして俺を置いて部屋に入った。
『そのときは、俺が引き取ってやるよ』
そして、俺も顔を赤くしてその場に座り込んだ。
*
「初めまして、あなたが俺の元婚約者の.....」
「はい、久義様」
柔らかく笑った彼女はとても嬉しそうで、そして涙を零した。なぜだか、自分も涙を流していて何となく抱きしめた。彼女は驚いた顔をしてすぐに笑顔に変わった。
「.....会いたかったよ」
そう言った彼女はどこか儚げだった。
*
「ようこそ曉館へ、愚弟当主様」
「お迎えありがとうございます、愚兄様」
約18年振りに会った弟は随分と雰囲気が変わっていた。そして、何より一人の男として成長しているような気がした。
「彼女のこと頼んだ」
「はい、もちろんです」
そう言って笑う彼に何故だかとても懐かしいような気分になった。
*
片想いと両片思いと。
(いっそ鴉に連れ去ってもらおうか)
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