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甘ったるい泡が流れていく。
降り注ぐ水はあたたかで、身体を這う水滴はなまぬるい。
『とりあえず、お風呂に入っておいで』
結局僕が転がり込んだのはシンの部屋だった。
紅茶が染み付いたシャツと、ぐちゃぐちゃになった顔。そんな酷い状態で棒立ちしていた僕をシンは快く受け入れてくれた。
涙かお湯か、区別がつかない。
再び1人になった途端、溢れ出した涙は止まることがなかった。
「…っぅ、…ぁ…」
そのままへたり込む。
夕は今、何をしているかな
姉さんと電話しているかもしれない
ご飯は食べたかな
それとももう、寝ちゃったかな
「…ばかっ…」
友達の関係に戻ろう、なんてよく言えたもんだ。
こんなにたくさん、夕のことで頭がいっぱいのくせに。
床に向けていた視線を少し上にあげると、鏡にうつった自分が見えた。
「…ぅ、……」
全身に散らばった紅い痕。
刻み込まれた、所有印。
震える腕にさえ付けられているそれは、きっとすぐに消えてしまう。
離さないでと。
そう思っていたのは僕のほう。
恋人としてずっとずっと一緒にいてほしい、と。
言いたかったよ。言いたかった。
自分から線を引いたくせに、こんなにも夕のことを求めてる。
でもこうするしか無かったんだ。
最もらしい理由で突き放して、自己満足に浸って、縋ってる。
そんなの分かってる。
けれど今は目を瞑ってしまおう。
そうすればもう、何も見えないから…
「……」
遅すぎる。
…ぼろぼろになって僕の前に表れた朝陽に入浴を勧めたのが1時間前。朝陽は烏の行水までとは言わないが、入浴は早く済ませるほうだ。
なのに。
バスタオルと着替えを準備し、思わず上がりそうになった口角を必死に抑えていたのも束の間。かかりすぎる入浴時間に自然と足は浴室へ向かっていた。
洗面所と浴室を隔てる扉の前に立って、耳をそばだてる。
音がしない。
まさか、
「…朝陽っ」
乱暴に開けられた扉と壁がぶつかり鈍い音を立てるなか、妙にゆっくりと流れる時間。
真っ赤に潤んだ瞳。
服を着ていてもわかる、白く線の細い身体は痛々しいほどに華奢で、繊細。
滴る水は優美な曲線を描き、それらをより一層引き立てる。
「あさひ」
口がカラカラだ。
喉を鳴らす暇さえ惜しい。
こんな姿を、奴の前では惜しみもなく晒していたというのか。
これ以上は目に毒だ。
まだ、もう少しだけ我慢しなければいけない。
「し…っん、」
先程目に焼き付けた光景を頭の隅で反芻しながらバスタオルでその身体をくるんでやる。
冷たい身体。
「あさひ、湯冷めするよ」
どさくさに紛れて抱き締めた身体を強く引き寄せる。
一度は殺してしまおうと考えていたそれ。
今にでも簡単に潰れてしまいそうだ。
タイルにつけたジーンズが水を吸い込んでいく。
「からだはあらった?」
「ん…」
「じゃあ、あがろう。風邪を引くよ」
「…しん、…」
「ん?」
「夕と別れた」
涙を溜めて、繋がれた視線。
ごめん、朝陽。同情できそうにない。
毛頭するつもりも無いけれど…期待した通りの言葉と、噎せ返るほど香る官能的な匂いに理性は限界で。
きっと歪んでいるに違いない顔を隠すよう、濡れた首筋に唇を寄せる。
「そっか、…頑張ったね」
石鹸の清潔な匂いがする。
僕と同じ匂いだ。
「頑張ったね、朝陽…頑張ったね」
「…っ、ふ…ぇ」
これ以上の言葉はいらない。
あげない。
滑らかな背中を撫でるように手を這わせ、絡み取る。
朝陽の啜り泣く声だけが響く浴室。
その首筋に、僕は静かに牙を押し付けた。
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