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浅い眠りのなか、夢を見ていた気がする。
背や腹を這う冷たい手のひら。
僕は問いた。
『……夕…?』
その瞬間ぴくりと静止したそれは、再び怪しい色を持って動き出す。
…気持ち、いい
少し、いい夢だと思った。
夕とベッドで2人きり。
そんな……もう叶う筈も無い欲望に注がれた蜜が心を満たす。
『……朝陽、愛してる』
僕も、愛してる。
「……ん」
上半身を起こし、首を巡らせる。
(…そうだ。僕は昨日シンの部屋に泊まって… )
そろりと掛け布団を捲れば、伏せられた睫毛と、規則的に伝わる寝息。
よかった。僕が起きたはずみで部屋主まで起こしてしまっては申し訳がない。
…何一つ装飾の無い携帯を取り出して、思わず疼いてしまった瞼を抑える。
ロック画面は午前6時を指している。今日は日曜日だから、まだ皆寝ているだろう。
きっと、夕だって。
「……っしょ…」
そろりと扉を開けて、廊下を見渡す。…やはり誰もいない。
僕は今シンの寝間着を着ている。
この姿で賑やかな廊下を歩く気にはなれない。それに夕の寝ている間に服を取りに行きたかった。
…戻ると言ってもなかなか勇気が出ない僕は朝ご飯だけ、シンと食べることを約束していたのだ。
忍び込むように自室に滑り込む。
息を殺しながら壁をつたい歩き、薄い扉を開いて、そして。
「…っ、」
ベッドに腰掛ける、夕と目が合った。
「………おは、よ」
細やかなツイードのキャスケット。
金髪にもよく似合うそれは僕と一緒に選んだ帽子。外に出掛けるのかな。…朝からどこに行くんだろう。
冷たくない、でも暖かくもない空気が流れる。
ごくりと唾を飲み込む音が大きく響いて、返ってこない返事を背を向けることで受け止めた。
泣きそうだ。
…きっと背中から、「好き」って言葉が滲み出てるに違いないから。
ごそごそと箪笥を漁る。
きっと今日は外に出ないから適当でいい。バイカラーのネルシャツに合わせてカラースキニーを手に取った。
パジャマの釦に手をかける。
1つ外したところで、ふいに気配が動くのを感じた。
「………ゆ、」
「こっち向かないで」
「…っ」
青白い腕が腰に回される。
背後から抱き締める、その力は弱い。
それでも振りほどくことができない僕を…夕は許してくれるだろうか。
「赤城の匂いがする」
「俺の…、もう俺の朝陽じゃないんだね」
夕が顔を埋めた首筋が濡れる。それが何なのか、僕にでも分かる。分かって、頬に一筋の涙が流れた。
「夕…」
「俺、今日ね、海里さんに会いに行くんだ」
「……っ……そう…、………よろしく、ね」
声が喉に張り付いたみたいだ。
精一杯捻り出した言葉は、精一杯の、真っ赤な嘘だった。
触れる皮膚がぴくりと跳ねる。
「行かないでって、言ってよ」
「…朝陽、俺を引き止めてよ」
「っ夕」
「…朝陽」
「………やめて…っ」
「あさひ」
「……っ…」
「あさひ」
「…朝陽、愛してる」
ゆっくりと離れていく温度。
ごめんね、僕が呟いた言葉は落下して、ラグの上に転がった。
足元を見つめたまま、扉が閉まる音を聞いた。
「夕、愛してる」
…僕も、愛してる。
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