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あれは夕と付き合い始めて少し経った時だった。
「伊吹くん、ちょっといーい?」
今も…この時も、交際という事実は公言しなかったものの、いきなり隣に、それも恋人の距離で夕に接する朝陽を快く思う人間はいなかった。
「なに…」
朝陽の顔に影ができる。
絵画のような笑顔を顔面いっぱいに貼り付けるこの同級生が、自分にどんな言葉…屈辱、暴力を齎すのか。朝陽はよく知っている。
それはこの数日間嫌というほど刷り込まれた、経験という名の鎖。
夕に泣きつくことは簡単だ。
蹴られた、とたった一言言うだけでも夕は動くだろう。
それこそ、図書室で自分を救ってくれた時のように。
でもそれでは駄目だ。
きっと夕は自分を責める。
それに、僕だって強い。強くなったんだ。
朝陽は思う。
無言で項垂れることで、なにも弱さの証明をしたいんじゃない。
これは抵抗だ。
きっと皆飽きて、すぐに終わる。
それまで我慢しよう。
そう、僕さえ我慢すれば…。
荷物を全て持ち帰り、できてしまった傷を隠して。
全ては、夕の傷付いた顔を見たくないから。
そう思っていた。
…今日までは。
「これ、まじで好きにしちゃっていーの?」
涙で何も見えない。
止まらない震えが、背中から天板に伝った震えが、机に新たな振動を生む。
「いいけど、なるべく早くしてよね。教師に暴露たら元も子もないんだから」
「わーってるよ」
「それにしても。…いつにも増して、しおらしいじゃない」
髪を鷲掴みにされて、軽く持ち上げられる。
「どう?寝心地は」
最低だ。
「なんか言えよ」
ガッ
「…っ、ぃ…」
また、傷ができた。
「……フン…、本の匂いがいい消臭剤になるといいけど」
見兼ねた男が声を掛ける。
「ひとりで喋ってないで、はやくカメラまわせよなァ…暴露たら元も子もないンだろ」
妙に分別くさい台詞の割には、そわそわと体を揺らす様に同級生は鼻を鳴らす。
ムービー撮影開始を知らせる音が響くのと、朝陽の耳をぬるりとした感触が覆うのはほぼ同時だった。
「やっ…」
同級生の声が覆いかぶさった男越しに聞こえる。
「これ…今撮ってるの、学校の掲示板にアップしてあげる。…そうだな、例えば…こんなのはどう?」
耳を這う感触は変わらない。
「淫乱で、ビッチで…どこでも…図書室でもヤッちゃうような僕と、誰でもいいからセックスしてください…なんて書いてさ」
そしたら、どうなるんだろうね。
首筋に移った舌が血管を舐め上げる。
「ひ…」
「そうなったら…もう雛森さんは一緒にいてくれないだろうね。可哀想な伊吹くん」
「……やっちゃって」
それは歪んだ怒りを膨らます彼の出した、明確で残酷な、合図だった。
「…っ…!ゃ、やっ…!」
教員に襲われて、そして夕に助けられた、夕と出会った場所で。
(犯される)
朝陽に影を落とすのは、指示に従う男ではなく、劣情に駆られた一匹の、雄。
ぷちぷちと外された釦。割り入った手がアンダーシャツを捲る。
耳許で掠れた声が囁いた。
「可愛いね」
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