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「ずっと見てた。他のヤツは雛森ばっかだけど、俺は伊吹のことが」
「ちょっと。何こそこそ喋ってるの」
「っせぇ、…おれ、俺は伊吹のことずっと見てた。好きなんだ。白い肌も、大きな目ェも、…すげえ可愛い。ヤりたいと思ってた」
めちゃくちゃにしたいくらい
耳に捻じ込まれた言葉がくわんと響き渡る。耳をも犯される感触にこみ上げる吐き気。口を塞ぐことができないのは、頭上で手を縛られているからで。
…好きって、なんだ。
その好きな人を縛って、自由を奪うこの男は、なんだ。
「ちゃんとやることやってよね、こっちも遊びじゃないんだから」
『逃げないで。怖いことはしないから……僕は君を、愛してるんだ』
昔、ある男に言われた言葉が心臓を穿つ。それはまるで―・・鈍色をした、鈍器。
「ゃ…っ」
普通じゃない。皆、普通じゃない。
我慢しなきゃ。
助けてほしい。
今まで持っていた、使命感にも似た感情。
その輪郭が今更自覚した恐怖心によって壊される音を、頭の何処かに感じる。
「でもなかなか手ぇ出せなくてさ。伊吹にちょっかいかけようとすると雛森…それに赤城にやられるって噂もあったし」
名前も知らない、その男の声は朝陽の耳に届かない。
「だから、今日はすげぇラッキー」
脇腹をまさぐっていた手がベルトのバックルに手をかける。
助けて、
「夕…ッ!」
「朝陽っ…!!」
重なった声と声。
ああ、僕は、
「服を脱いで、ここに入れて。」
怒りというよりは、不機嫌。
そんな曖昧な雰囲気を纏って僕に指示を出す夕の瞳は酷く濁った青色をしていて。
「夕、」
「早く。…それとも手伝わないとできない?」
「ごめ…」
謝らなくていい、そう強まる目。
急かされるように、ついさっき夕が留めてくれたばかりの釦を外した時。
「……っ、これ」
頭上で息を飲む音。
皺の寄ったシャツの下に、無数に散らばった青痣。
しまった。
弁解の言葉を発する暇も与えられず、
「ぁっ」
軽く足を払われて、膝裏を掬われる。
「ゆ……っ!」
あっという間に浴室に連行した朝陽をタイル床に押し付け、夕は後ろ手でコックを捻った。
「つめたっ…」
「これだったんだね」
「え」
「これのせいだったんだね」
剥き出しの肌を伝う水が冷たい。
出しっ放しのシャワーから降り注ぐそれがカッターシャツと肌を繋げた。
夕はそうやって次第にあたたかくなる水をなすりつけるように、痣を消すように、肌…主に腹部を摩る。
「これだから、…セックス、してくれなかったんだ。…服を着替えるのでさえ、見えない場所でやっていたんだね」
体育の時だって。
そう耳許で囁かれた言葉を不快に感じないことに―・・この状況下では罰当たりなことだけれど―・・朝陽は何よりも安堵した。
図書室で朝陽の名前を呼ぶや否や、携帯等いろいろな場所に隠されていた記録媒体を回収、2人の男を存分脅して追い払ったのは紛れも無く、夕…その人だった。
夕はよく心得ている。
暴力は、暴力で解決できないことを。
そしてそれを解決するための力を、自らが備えていることを。
「なんで俺を頼ってくれなかったの」
「なんで…言ってくれなかったの」
ああ、僕は、
自分を、自分で―・・
「ごめんね」
「あさひ…」
「夕、ごめんね」
夕が好きなのは僕なのに。
頼らない、ということと、夕を傷付けてしまう、という感情とを混同して。
ただ怖かっただけなんだ。
面倒だからと、捨てられるんじゃないかって。
(女々しいなぁ…僕も)
「ごめんね、夕」
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