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「でも、…それがもう……」
いきなり耳に入ってきた肉声。
途切れた思考に身体がぶるりと震えた。
その言葉をしりすぼみさせた光の訝しげな声がかかる。
「……?…朝陽…?」
「ぁ…」
思い出したのだ。
…そうだ。あの日だった。
突然浴室から飛び出した夕はあの後、太陽が深く沈んだ時間に帰った、らしい。
―・・髪色を変えて。
言うまでもなく、僕は半べそになりながら自身を慰め自室に帰ったし、その僕を迎えたのはシンだった。
らしいというのは、僕はその時夕のルームメイトではなかったからだ。
夕が僕のことを「朝陽」と呼ぶことを知っているのは、最早赤城と斎藤しかいない。
そういう、こと。
ストンと身体に落ちた過去が、夕への気持ちを更に大きなものにしてゆく。
なめらかなマリーゴールドから暗い色に変わってしまった髪。驚く僕に彼は微笑んだ。
『似合う、かな』
「……朝陽、大丈夫?ぽやっとしてるけど…」
心配というよりは、呆れている顔。僕はぶんぶんと頭を振った。
熱を振り払いたくても、鏡に額を擦り付けることはもうできない。
「えっと…それで、なん、だっけ」
相変わらず賑やかな声がリビングのほうから聞こえる。…そうだ、紅茶。紅茶を用意するんだった。
「それがもう、金色だってことは」
真剣な目。
今の彼なら敬語を使っても違和感は無いだろう、以前のように。
(紅茶だ、……紅茶を…)
ティーポットの蓋を開けないと。
「それが金色だってことは………朝陽と雛森さんは、もう付き合ってないんだね?」
ゴトン
手から落下した重み。
「あっ……」
幸いにもそれは割れていなかった。
厚めのキッチンマットに吸収された衝撃に、思わずしゃがみこんだ僕の腕を光が掴む。
「朝陽?」
「痛い…」
「朝陽…さっきから変だよ?ちゃんと僕の話聞いてる?」
「いた…」
「朝陽」
「や……っ」
「朝陽!」
…何もかも暴かれてしまう。よりによって、この人物に。
そんな思いだけが頭の中を支配して。
強制的に繋がれた視線を僕から断ち切ることは許されなかった。
「……ぅ…」
口がからからに渇いて、辛い。
唇を引っ掻く指が止まらない。
誰かにそうするよう言われたわけではないのだけれど―・・
「忘れないでって、僕、言ったよね」
「ぁ……」
「朝陽、僕に言ったよね」
『…僕だって、夕のことが好きだ。慕っているし、想っている。』
「覚えてないの?」
ぬるく湿った手で、背中を下から上に向かって撫でられた時…きっとこんな気持ちになるんだろう。
グロ…グロ…とこめかみが脈打つ。手が震える。…喉が、鳴る。
「忘れたの?」
今の僕にとって、引き結ばれた光の唇はまるで笑っているようにも見えた。
目の奥が熱い。
「忘れて…ない」
「なら、」
「……っわ…忘れてないから別れたんだよ!」
「…!あさ、」
思ったより大きくなった声に、ハッとなって口元を押さえた時だった。
「何やってるの」
低い声がキッチンに侵入する。
そこに立つのはシンでもない、赤城でもない。
ただ1人の赤城慎一が、静かに僕らを見つめていた。
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