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「………!」
「シ…」
「朝陽、大丈夫?」
「わ、」
背後(うしろ)からまわされた腕は驚くほどに冷たい。首筋にかかる吐息が、その距離の近さを物語っていた。
「何かされたの」
「ちが…違うよ、これは僕と光の問題で…」
「…ふうん」
妙に空いた間。
その瞬間サッと色を失い蒼白になった光の顔面が下を向く。
この時の朝陽が、背後に控えた慎一の顔を見ていなくて幸運だった。
「…赤城…こそ、どうしたの」
背中から薄々と感じる気配に身じろぐ。少し、痛い。
反してがっしりと僕の腰をホールドしたシンは口を開いた。
「あまりにも遅かったからさ」
…大丈夫みたいだ。柔らかな、いつものシンの声。“赤城”らしさはあまり無いのが少し引っかかるけれど、今はそれどころじゃない。
「あ…ああごめんね、もうすぐで紅茶…できるから」
「ん、…待ってるよ」
沈むように閉じたドア。
それまで動きを止めていた光が隣に並ぶ。
「あの人は……朝陽の何なの」
「え…?」
怖い物でも見たかのように大きな黒眼を固定させた光は呟く。
「何って…」
シンは元ルームメイトで、僕の中等部からの親友だ。
「…ごめん。何でもない」
光はかぶりを振る。
そうしてもう一度きゅっと唇を引き結ぶと、眉根を寄せてこう言った。
「さっきのことだけど。……2人が別れたなら…僕、頑張るから。」
「……そ……う」
それがきっと叶わないことを、僕は知っている。
いや、叶ってほしくないのか。
僕は目尻だけで笑うと、湯を注いだティーポットに蓋をした。
「美味しい」
赤っぽいそれを胃におさめたシンはふんわりと笑う。
停止したゲームはまさにレースの途中で、見る限り斎藤が不利なように止めてあった。こういうところでいつも、なかなかシンは抜かりない。
「マドレーヌなんて久しぶりに食べたわ」
「朝陽が持って来てくれたんだよ」
「………なんや、この数分で急激に距離縮まったみたいやな……別にええけど…」
声は明るいけれど、視線は決してくれない光はマドレーヌにかぶりつく。オレンジピールのはいったもので、買い置きしていたものだ。それが夕の最近のお気に入りだということに彼は気が付かない…いや、知る由もないのだけれど。
僕の隣に座っているシンは円卓に肘つくのを止め、ゆったりと首をめぐらせる。
「このマドレーヌ、どこで買ったの」
「え?…あ、ああ…最近大きいショッピングセンターができたでしょ?あの近くのケーキ屋さんで。」
「へえ」
にっこりと、緩まっていく唇。
ついついその赤い曲線に僕は目を取られてしまう。
「今度、俺にも教えて?」
ね?と。
まるで僕にだけ、僕のために与えるように言葉を紡ぐシンはやはりいつもの彼と違う雰囲気を纏っていて。
けれどその違和感はやがて解決した。
夕だ。夕みたいなのだ。
まるでお風呂からあがった後、髪を拭く時の夕のような。
「朝陽?」
「あ、うん、…うん」
「……」
僕が放った生返事に柳眉を顰めたシンが口を開くのと、インターホンが鳴るのはほぼ同時だった。
「伊吹君、伊吹朝陽君はいる!!??」
「へ…」
見つけたと言わんばかりに肩を掴まれて、思わず目を見張る。
乱れた髪をさらに振り乱す寮監は叫んだ。
「お姉さんが、車に撥ねられたって!!」
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