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人生は一本道だ。
まるでマラソンのように僕らは淡々と、あらかじめ天でくつろぐ偉い人間かなにかによって決められた道を日々進んでいく。
もちろんそれを否定するような詩がいくつも作られているのは知ってる。
でも、やっぱり。
マラソンコースは自分自身の意思で変えられるものじゃないと僕は思う。
思うんだ。
だって、ほら。
「ひーくん……」
皆して、泣いているじゃないか。
「ひーくん、」
「姉さんは……?」
赤い目をして立ちすくむ母は酷く窶れて…何故だかとても、醜く見えた。不潔なんじゃない。ただ、醜いのだ。
いつもは愛らしい自分の母親が、今日はブヨブヨした肉の塊に思えて仕方がなかった。
同じような空気を纏った父が代わりに応える。
「トラックに撥ねられて…、即死だったそうだ」
「お前は…遺体を見なくていい。見てはいけない。」
目が義眼のようになって、動かなくなる。
「へ…」
その窮屈な黒眼の中で、僕はふとあることを思い出した。
…そうだ、メール。
昨晩受信したメールを、僕はまだ開封していないはず。
そんな場合では無いのに、どうしようもなく気になって仕方がなかった。
目を伏せる父を横目に携帯を取り出す僕はきっと同じ、ブヨブヨした肉の塊だ。
『今日はごめんなさい。
自分自身冷静になれなくて…ゆっくり物事を考えることができなかった私は、きっとひーくんを深く傷つけてしまったと思います。
明日、夕さんと2人で会います。
私が出した答えを…、少し遅れてしまったけれど、私のことをひーくんに伝えたい。だから―・・
「夕さんも……一緒に」
「へ」
「撥ねられて…」
「夕も………?」
堰を切ったように泣き出す母。
その涙は一体、誰に向けられた物なのだろう。
そうぼんやりと考えたのは、ものの数秒だった。
「夕はどこ……?」
「朝陽、夕さんは」
「夕はどこなの…!!」
走り出した脚と、握り締められた携帯。
もし、夕が。
夕がいなくなったら。
「夕……!」
人生は一本道だ。
それを分かっていないと、いつか深い場所に、
落ちることになる。
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