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カルマ
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これ以上に無いくらい、思い切り抱き締められた。
汗で張り付いた自身のポロシャツに慌てる暇もなく、より強い力を入れて抱き締められる。
苦しいけれど振りほどくことはできない。
「おか…あさ」
「ひーくんのばか…!!」
「…っ」
「なんでっ…なんで…連絡くれなかったの…!」
「なんでっ…!」
「お母さん…」
「鈴乃(すずの)」
葬式以来、初めて帰省した僕を涙で迎えたのは母だった。
「鈴乃、落ち着きなさい」
一見冷静そうな声色で母を僕から引き離す父ですら、うっすら目元が赤く染まっていて。
「あなた…!」
「いいから。…朝陽、外は暑かっただろう。着替えは準備しておくから、とりあえずシャワーを浴びてきなさい。」
「うん」
熱いお湯を浴びながら考えていた。
身体を洗い終えて、タオルで身体を拭き、そして着替えたら。
僕はどうすればいいんだろう。
母が言った通りしばらく連絡を取っていなかったから、今の自分がどの位置に置かれているのか分からない。よってどうやって立ち振る舞えばいいのか分からないのだ。
それに、もし姉伝いに夕との関係が露見していたら……
(…こんなこと考えるの…やめよう…)
薄手の長袖を着ていても、この家はいつでも…夏でも快適だった。
それを今、思い出した。
ネイビーのリネンシャツ。
タオルドライした髪の毛を持て余すようにふらふらとリビングに足を踏み入れた。
「ひーくん」
先程までの態度とは一変、目元こそ赤いものの静かな笑みを湛えた母は紅茶を注ぎながら
「冷たいのでいいわよね」
「ありがとう」
「…さっきはごめんなさい」
「へ…」
「私…」
「私…………私、みーちゃんが亡くなって…ひーくんまで遠くに行っちゃうと思ったら…」
「お母さん…」
「…だから、不安だったの」
「朝陽は、僕達の大切な子供だよ」
「……おとうさん…」
「海里も、朝陽も。大切な僕の子供だ。もちろん鈴乃にとっても朝陽は大切な息子。」
と、父は言い、穏やかな顔で自分と母との間に座った僕の頭をゆっくり撫でた。
「海里のことを忘れたことなんて一度も無い。無いけれど…だからこそ、朝陽が愛おしい。」
父は続ける。
「だから、少しだけでいい。もう少しだけ多く、お母さんに電話でもいいから連絡をとってくれないかな。もちろんこうやって帰って来てほしいとも思う。」
「うん…」
僕は馬鹿だ。
両親はこうやって一心に愛してくれているというのに。
僕を1人の息子として、認めてくれているというのに。
「ごめんなさい…」
目元を歪めた僕に、その頭を撫でるのは父だけではなかった。
お母さんの柔らかな手が髪に絡まってゆく。
「それにしても、ひーくんはますます美人になったわね」
「へっ…」
「そうだな。この目は…お母さん似かな。鼻は僕だ。」
「あら、私だって鼻筋がちゃんと通ってるわよ、ほら、」
「僕は通ってるか通ってないかの話をしているんじゃないよ、鈴乃。」
僕を挟んでプチ夫婦喧嘩を始める2人に、僕は思わず吹き出してしまう。
「ふはっ…あはは」
そのまま3人の笑い声がリビングにひとしきり響いて、日が暮れた頃。
姉さんの仏壇でお焼香をした。
「姉さん…ただいま」
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