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それからのシンはあくまでも優しく、俯く僕に何も言わなかった。
「全然終わらないね…」
「これだけびりびりじゃあね、後で会計にガツンと一発言ってやろう」
「シンの知り合いなの?」
「いや……?」
シンはおどけて、僕は笑った。
見計らったように委員長が机の側に立つ。
「わ、けっこう進んだね、ありがとう。もう夕方だし、そろそろ切り上げようかなって皆言ってるんだけど、どうかな」
「いや、この一枚だけ仕上げてから上がるよ。皆…赤城も先に上がって。ほんとにこれだけだからさ」
「いやいや、手伝うよ。いいんちょー、俺と朝陽はもう少しやっていくから。あ、戸締りは任せて」
「赤城…」
ありがとう そう呟くと どういたしまして と赤城は微笑んだ。
同じくありがとうと丁重に頭を下げた委員長を大きな身体が押し退ける。
「佐伯ー!伊吹!赤城も見てぇや!近年稀に見る最高傑作やで!」
「……うわ」
「斎藤…」
「斎藤くん……」
あの委員長までドン引きしている。
その視線の先にあるのは、立て看板の形をした何か。もっと詳細に言うならば、ぐちょぐちょとした、何か。
「皆して…そんな驚かんくても。たしかに素晴らしい出来やけどな!……………な…?」
あまりの出来の悪さに絶句していた僕らのうち、最初に口を開いたのは赤城だった。
「闇鍋?」
「ぶは」
素っ頓狂な発言に委員長が吹き出してしまう。
なんだか貴重なものを見た気がした。僕はどちらかというとそのことに興味が走ってしまって。
それも束の間、斎藤がわなわなと震え出す。
「なんやてっ…!?」
「闇鍋の図?」
「ちゃうわ!書いてあるやろ、…ほら、お化け屋敷……って……あれ?」
「ぶふっ…ふふ…はは、お北屋敷になってるけど…ふ、ふふ…斎藤くんって……ふ、」
「―・・っっ!さ、佐伯、っ覚えとけよぉっ〜!」
斎藤は何故か委員長に指を指し、そさくさと教室から出て行ってしまった。
この赤とも黒とも緑とも…青とも言えない四角形を彼は放置するつもりなのだろうか。
そしてひとしきり笑った委員長も赤城に教室の鍵を渡して寮へと帰って行った。
いつの間にか、教室には僕とシンしかいない。
「あ―・・っ!終わった!」
「ふふ…まだ一枚目だけど」
「ひぃってば…それは言っちゃ駄目なやつだから」
「…さっきはありがとうね」
「え?あ…これ(暗幕)のこと?それなら…」
「いや、違くて。…生指の前で声をかけてくれたでしょう」
シンは一瞬首を傾げ、その言葉にするりと目を瞬かせる。
夏は日が長い。夕方と言ってもまだ十分に明るい外と中を隔てる窓ガラスがぬらりと光った。
「ああ…ひぃがさ、なんだか様子がおかしかったから」
一つの机に僕が腰掛けて、真正面に椅子を移動させたシンが座っている。
己のパーソナルスペースを犯されることに抵抗を抱かない関係だ。シンと僕のそれは。だからむしろ心地いいはずのこの雰囲気に、幾分似合わない真面目な色をシンはふと浮かべた。
「雛森のこと、考えてたの」
「へ…」
ばさりと、頭上を覆った暗幕。
「し…、………………っ!!」
唇に触れる柔らかな感触。
「…っ、っ…」
どうして。
「―・・っ」
前にもこんなことがあった。
その時の視界は開けていたけれど、また、もしかしたらからかわれているのかもしれない。
しかし、そんな考えはシンの言葉に掻き消される。
「あさひ」
真っ暗なのは2人の上半身を暗幕が覆っているからなのか。それとも僕が、目を瞑っているからなのか。
視覚が奪われたこの状態はただただ無防備で、そして何よりも敏感だった。
唇から漏れ出す細やかな吐息が、ぬるりとした感触の舌が、明確な色を持って身体を突き抜けてゆく。
絡められた舌と、顎に添えられた手のひら。
思考回路が働かない。
身体が熱い。
抵抗の声が喘ぎになった時、僕はシンの胸板を強く突き放した。
「やっ・・!」
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