アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
何時もとは何かが違う、その妙な違和感に眉を寄せたのは病棟のエレベーターを待っている時だった。
「今日も御見舞いですか」
「はい、あなたも?」
「ええ―・・なかなか良くならなくてねぇ」
白髪の彼女がかつての恋人のために背中を丸めフルーツナイフを滑らせる姿を想像することは、今の僕にとって容易いことだった。
1人になったエレベーターは広い。
指で押してもピンと張るだけの空気に疑問符を浮かべながら、それでも階を上昇していく。重たい石か何かが、それに抗うように胃の中をふわふわと漂っている気さえした。
しかしそれらはすぐに霧散する。
なんら変わりはない廊下を歩くと、何時もはピシリと閉められたドアが数センチ開いていた。
閉め忘れたのか、それとも誰か来ているのか。もしくは強く叩きつけられた反動が、この少しの隙間を生んだのか。
理由は分からないまま、吸い込まれるように個室へと入った。開けっ放しの窓から吹き込んだ夕方の空気がパーテーションを揺らす。
「今日は学園祭だったよ」
丸椅子に腰掛け、落ち着いた僕は人差し指の腹を使って頬を撫でた。夕の肌はいつだってなめらかで気持ちがいい。
「お化け屋敷をしたんだよ…それでね…」
指の探索は続く。
頬から首筋を伝い歩いた後は、肩、腕、腕の関節、手の甲へと。
「―――・・」
ふいに、あたりの空気が震えた。
それは瞼が動いたからなのだとすぐに気がつく。僕のではなく夕の瞼だ。それはやがて明確な動作になり、睫毛に振動を生む。
ゆっくりと、青い瞳(め)が開いた。
「夕…?」
「だれ…………?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
66 / 97