アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
7
-
「え・・・?」
その声は酷く掠れたもので、僕は一瞬聞き間違えたのだと思った。
瞬きのできない僕を尻目に、あ、あ、と小さな声を出す夕は殻を破った雛のように身体をそわそわと揺らしている。
目が合った。
「あ、…あ―・・」
その言葉の続きが、朝陽だったならよかったのに。
「―・・あなたは誰、ですか?」
久しぶりに聞くその声は、相変わらず僕の好きな声で。
それなのに、
「…………?あの…?」
夕は、記憶を失ってしまったのか。
「それに…ここは……病院?…俺は…」
「…僕の名前は伊吹朝陽」
「え…?」
ふと、思い出した。
初めて夕と喋った日のことを。
「あなたは夕。雛森夕だ」
あの図書室での出来事を。
『だから、これからはあの日のことがフラッシュバックして…辛くなっても、俺と出会えたことを思い出して。そうしたらきっと辛くないし、俺も幸せ』
思い出してるよ。でも、辛いよ。
幸せになんか、なれるわけないよ。
「朝陽か…いい、名前だね」
「へ…」
「ぽかぽかしてて、暖かそう」
きっと現状が理解できなくて、頭が真っ白なのは夕のほうなのに。ふにゃりと眉を下げて笑う夕に、感情が、爆発した。
「ふぇっ…」
「…っ?!」
「夕っ…なんで、…なんで、」
なんで、忘れてしまったの
「…ぅ、うう…」
「どうしたの、なにかっ……った…」
起き上がろうとして失敗したのか、腰を押さえる夕に思わず抱きついた。去年の冬より細くなったそれは何よりも僕の心を痛めるもので、あまり強く抱きついていいものでは無いのだけれど。それは分かっているのだけれど。
「夕…っ」
「伊吹…君…?」
たとえ僕が伊吹君でも。
僕は夕が好きだ。慕っているし、想っているのだ。
それから僕が泣き止むまで、夕はずっと僕の背中を撫で続けた。
「目が綺麗になったね」
「ぅ…」
「台風のあとの、水溜りみたいだ」
やっとの思いでナースコールを押し、部屋から出ようとする僕に夕は言った。
「伊吹君は…」
「…うん?」
「伊吹君は、俺を大切にしてくれていたんだね」
「俺にとって、大切な友達だったんだね」
その言葉だけが、僕の頭の中で、ぐるぐると渦を巻いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 97