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玄関を開けるなり夕は呟いた。
「けっこう広いんだね」
心臓がうるさい。
何故こんなことになっているのか。それは、レオが夕と理事長室へ挨拶に行くまでの時間、寮を案内してやってくれと僕に頼んだからだ。
夕が…
夕が、いる。
随分と久しぶりに、この部屋で好きな人と2人きりになることに心臓が高鳴らないわけがなくて。
「ちゃんとキッチンもあるんだ」
「俺…ここで料理とかしてたの?」
料理はしていないけど、性行為ならたくさんしたよ。なんて、
(な に 考 え て ん だ 自 分 は !)
邪な考えを振り払うべく頭をぷるぷると振る僕にお構いなく夕は扉を開けて行く。なんかもう、泣きたい。
「あっ」
夕の背中越しに床上(しょうじょう)を認めて、僕は思わず声をあげた。
ずっと転げたままではいけないだろうと、昨日慌てて洗濯に出した夕の衣服が畳んでいる途中で放置してあったのだ。
「服…」
「ぅ」
「もしかして…俺の?」
何も言わず、うつむく僕の顎を長い指が掬う。それはまるで付き合っていた頃を錯覚するような手つきで、びっくりした僕は後ずさった。
拍子にそれらの衣服に足を引っ掛けて体勢を崩す。
あ、と思った時にはもう遅くて。
背中から床に叩きつけられ、鈍い痛みが全身を走る。
「……っは…」
静寂の中に一つ、荒い息が響く。
しばらくして僕はようやく、衣服を下敷きにしていることに気がついた。痛みがそれほど強く無かった理由はこれだ。
どかないと、せっかく洗濯をしたのに。
起き上がろうとした僕を覆いかぶさる影が制した。
夕だ。
「怪我、無い?」
耳許で甘い声が聞こえる。僕はその肩に顔を埋めていた。そのあまりの近さに身体が強張る。
これじゃまるで。
「ゆっ……ひな、ひなもりく、」
押し倒されてるみたいじゃないか。
「んー…大丈夫、みたいだね」
突然倒れるんだもん、びっくりした。そう付け足した夕の指先が乱れた前髪を整える。
そうしてそれがするりと後頭部へと滑ると、襟足を撫で―・・首筋を這った。
「!?」
「髪の毛、黒くてサラサラで綺麗」
「それに…」
金色の髪が首筋をくすぐる。
「……っ…ぁ…」
「なんだか懐かしい香りがする」
夕は肩口に顔を埋め、すんすんと匂いを嗅ぐ。
なんだ、これは。
爆発してしまうんじゃないか。それくらいに僕の馬鹿正直な心臓はばくばくと煩く鳴り響く。
「ふぇっ…」
「ん?」
「ぅ…ちか、…っ、ちか、」
「ちか?」
「近いんだってば、夕のばかっ!!!」
「…!うわっ、と、」
思い切り突き放したのに、夕は病み上がりなはずなのに、然程ダメージは無かったのかゆらりと立ち上がる。途端離れて行った体温を追って立ち上がった自分がいた。
空を切った手がぶらんと垂れ下がる。
本当は。
今すぐキスしたい。
触りたいし、触ってほしい。
「ごめんね、気が付かなかった。」
全部嘘だよって、抱きしめて、何も考えられなくなるくらいに激しく抱いてほしい。
おかしくなるくらいに、めちゃめちゃに。
「伊吹君?」
「…っ…」
「そうだ、ベッドって上と下、俺はどっちを使えばいいのかな?」
「え…?」
「…?…2段あるでしょ?」
「あ…」
飛んでいた思考はその言葉にすぐ掻き消されて。
「下段…使ってるみたいだから、俺は上で寝ればいいかな」
そうか、普通はばらばらに寝るものなんだ。今まで下段で2人寄り添って眠ることが常だったから。
「う…うん、そうだね…」
ふと2つ並んだ枕に視線が走って、ぎくりとした僕は
「あ…あは、僕、枕2つ使ったほうがよく眠れてさぁ…」
なんてうそぶいてしまう。
あ、こんなこと言葉に出さなくても良かったんじゃないか、という冷静な思考が焦る頭によぎった時、
「そうなんだ」
夕はそっけなく呟いた。
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