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真っ先に浮かんだのは光の笑顔だった。
「それでも朝陽は雛森のことが好きだと言える?」
唇に鉛をぶら下げた僕は、動かない。言葉を発することができない。
唯一握ったシンのシャツだけが手汗を吸収しようと躍起になる。
以前光が僕にとっての夕を「恩人」と表したことがあった。
それが今更になって胸に大穴を開けている。
情が恋になったんじゃない、とその時の僕は思っていたけれど、どうだろうか。
それなら何故、夕は僕を好きになったんだ?
僕たちはあの事件をきっかけに、なだれ込むようにしてここまできた。
何か大きいものにでも迫られているかのように唇を重ね、愛を囁き一心不乱に体を繋げた関係なのだ。
あれが成行きの恋だったならば、真っ白になってしまった夕、それらをとりまく環境はこの僕をどう受け止めるんだろう。
僕は勘違いしていたんだ。
自由になるってことは、何も夕と僕の関係が許可されることじゃない。
むしろ白紙になるということだ。
記憶が戻るにしろ、戻らないにしろ……そこに墨を差す存在として、いま水無月光が立っている。
急に
急に、不安になった。
僕の部屋には夕と光が二人きりだ。
焦りを感じ取ろうともしないシンは、なおも言葉の雨を止めない。
「俺は受け止めてあげるよ」
「朝陽のこと受け止めてあげる。」
「君だけ…受け入れるよ。…僕は君だけ、受け入れる」
白い歯が、暗闇の中で光った。
「大丈夫だよ、朝陽」
涙があふれ出す。シンの顔は見えなかった。
「俺はちゃんと、朝陽のことを見てる。」
自分の腕の中でいま、最も貴く愛しい存在が震えている。
「…う、ぅ……っ、…ぅ」
きゅっと結ばれているだろう可愛い唇から溢れ出す泣き声すら食べてしまいたい。なんて、僕はヘンタイなんだろうか。
朝陽が死んだ姉の存在に関わらず、雛森夕のことをぐずぐずと半ば強制でもされているかのように好きでい続けるのだろう、ということは、共に過ごした三年間の経験からわかっていることだった。
だから雛森夕に全て向いている意識を、1%でもこちらに向ける必要があった。
告白したのは、たしか夏休みの終わり頃だっただろうか。
涙を零してまで、できるだけクサい、それらしい告白をしようと努めたのは、今まで僕がかけてきた甘言に朝陽が頼り切っているという事実があるからだ。“シン”を蔑ろにしてきた。そんな気持ちが芽生えればいいと思った。
ほんとうは、純粋な 好き という気持ちが欲しい。それ以上を望むつもりは無い。
けれどそれが手に入らないのなら。
甘い言葉で脅して、つけ込んで、正しい気持ちで無くてもいい。恋人という位置が欲しい。キスをする権利が欲しい。暴いた剥き身の朝陽、そのなかに、入りたい、と、思う。
その上で水無月光という存在はとても有意義だ。ありがたい存在。
夕を取られてしまうかもしれないという不安は足元をさらに危うくする。もし万が一、そこに交際という事実が舞い込めば―・・その時こそは、思い切り抱き締めてあげよう。
今までが長すぎたのだ。
もうそろそろ、手のひらにおさめても罰は当たらないだろう。
嗚咽を飲み込んですすり泣く朝陽。
その柔らかな髪を、這うような手つきでそっと撫でた。
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