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いつになく緊張しながら職員室に入った僕は隣接している応接室に通された。背の低いテーブルと、深く身体が沈み込むタイプのソファ。
「久しぶりね」
そう言って小さく手を挙げたのは夕の実姉、有沙さんだった。
「お…お久しぶりです…」
僕が少なからず驚いたのは、呼び出されたのが弟である夕ではなく僕だったからだ。おっかなびっくり腰を掛ける僕に有沙さんは苦笑を浮かべる。
「今日はあなたに用があって来たの」
「僕にですか?」
「ええ……だからそんな怖い顔をしないで。ほら、先生達が珈琲を淹れてくれたの。クッキーもあるわ」
こんなに待遇がいいなんて、夕はまた先生達を怖がらせてないといいけど。そう付け足して有沙さんはシュガーポットの蓋を開けた。
「わ、角砂糖だ。嬉しい」
彼女はそれをトングで一つ掴むとスプーンの上に乗せる。
「私、夕と違って甘くした珈琲しか飲めないの」
そう言って珈琲の中にスプーンを沈めた。
「……あ…」
ふと、最後に姉さんと会った日のことを思い出す。カフェでらしくなく甘い珈琲を啜っていた彼女は、今有沙さんがやっていたようにスプーンごと角砂糖を沈めていた。
有沙さんは首を傾げる。
「どうかした?」
「いえ…姉さんと…同じことをしていたので…」
しりすぼみにそう呟くと、驚いたように彼女は目を数回瞬かせた。
「角砂糖のこと?」
そして眉を下げる。
「…海里は、…彼女は、甘い珈琲がダメだったと思うけれど…」
「最後に会った時、姉さんはスプーンに角砂糖を乗せていたんです」
そう、と有沙さんは呟いた。
「私はいつもこうしているの。クセがうつったのね」
大事な宝箱の存在を思い出しているような、まるで愛おしむような笑みで彼女は続けた。「今日来たのはね。」珈琲を一口啜る。
「…海里と…夕のことなの」
「姉さんと…夕…?」
「ええ………これを。」
校章が付いた革製の学生鞄から有沙さんは白い紙片を取り出した。正確にはそれは紙片ではなく無地の封筒で、不思議なことに表裏何も書き込まれていない。
「これは…」
「開けて、読んで」
有沙さんはゆったりと綺麗な笑みを浮かべる。けれどそれは同時にとても悲しそうな笑顔だった。
「…」
真っ白な封筒は、特段封をされているわけではなかった。
震える指で便箋を取り出す。
そこには思ってもみなかった、姉からの言葉が綴られていた。
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