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ストン、という音がして、過去が身体の中に入ってきた。
「覚えがあります…僕、昔よくその病院で遊んでました。」
有沙さんは「やっぱり」と微笑んで、
「この学園に入学して偶然朝陽君を見つけた時なんて、夕は大はしゃぎして電話してきたわ。もっとも気が付いてもらえなかったらしくて、相当ショックを受けていたみたいだけど。」
「ええ…!そうなんですか…」
「まあ本人は絶対振り向かせるとかなんとか言ってたけどね、かなりぞっこんだったみたい。たまたま図書館から声が聞こえたらしくて…大切な人を今度は自分が助けられて、それが誇りって。そう嬉しそうに話してた。」
有沙さんが珈琲に口をつける。すでに席は元の位置へ戻っていた。先ほどとは打って変わり、重いものを吐き出すように有沙さんが口を開く。
「両親が婚約のことを初めて夕に伝えた時、彼は暴れた。…それまで病弱で大人しかった子供が急に噛み付いてきたのが相当応えたみたい。父は彼を殴ったわ。けれど口に血が滲んでもなお、彼はNOと言い続けた。」
眉を下げた有沙さんの顔を、僕は直視することができなかった。
たしかに記憶があったからだ。笑って帰省した彼が、唇を切らして帰ってきた日のことだ。
「私には父の気持ちもよく分かった。彼は…レオは、古く昔からある雛森の家に婿取婚という形で名の通り嫁いだの。それは彼のプライドを少なからず傷つけたと思うし、日本人じゃない時点で風当たりは相当なものだったと思う。私の祖父はいい意味でも悪い意味でも古い人間だから…」
「だから、」有沙さんは続けた。
「…だから、父は夕が拒否することを許さなかった。その日夕は打ちのめされて帰ったけれど、次の日から毎日家に足を運んだ。私に橋渡しを頼んでまで…何でもするから婚約だけはやめてくれ、と。」
「それでも父は許さなかったわ。すでに聞いているかもしれないけれど…父は夕を脅した。そこまで言うなら学校を変える、寮に入ることは許さないって。」
震える声で、僕は呟いた。
「それで…」
夕は選んだんだ……今を。
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