アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
21
-
「私はあの時の夕の顔がいまだに忘れられない」
「それくらい、絶望を絵に描いたような顔だったの……パーティには出席するから、寮には卒業まで、このままいさせてくれって…そう言って夕は寮に戻った」
違うわね、有沙さんは綺麗に笑った。
「あなたに会いに行ったのね」
「……っ」
その笑顔が、夕があの日見せた笑顔を思い出させた。
『なんとかする、なんとかするから』
あの時、もっとちゃんと夕の変化に向き合えばよかった。
『…っ俺は、俺は今を選んだよ、選びたいよ、朝陽』
あの時、夕のことをそっと抱き締めてあげればよかった。
『それは…いつか終わる関係を先延ばしにする…そんな未来ってこと?』
夕はどれだけ心を痛めただろう。
ずっと辛かったんだ。苦しんでたんだ…けれど夕はそれを丸めて、隠してた。傷つきながら…全て僕のために。
「夕のこと…今のあなたはどう思っているの?」
「僕は…」
好きだ。好き過ぎて、おかしくなってしまうほどに。…けれど夕は。
へらっと笑ってみせた。
「夕には…付き合っている人がいますから」
有沙さんは驚いたように目を見開く。けれどそれは一瞬で、カップを置いた彼女は身を乗り出して言った。
「今はあなたの話をしているのよ。朝陽くん。」
「…っ」
「私はあなたと夕が一緒になって、幸せになってほしい。それは前に戻ればいいってことじゃないわ。残酷なことを言っているのも分かってる。それでも私は…私と、海里は、2人の幸せを願ってる」
有沙さんは再び同じ言葉を口にした。
「夕のこと、どう思っているの?」
僕は走り出した。
もう後悔なんて、したくなかった。
勇気を出す番だと思った。
運命に抗おうと必死になった姉さん、夕、…それから有沙さん。
記憶を失っていてもいいじゃないか。
恋人がいてもいいじゃないか。
僕の気持ちを伝えるのは誰でもない、僕自身なのだから。
「夕っ…」
オレンジ色の光で満たされた室内に僕の言葉は音を立てて転がった。
夕がその夜、2人の部屋に帰ってくることはなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
91 / 97