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「おはよ…」
食堂で朝ご飯を食べた時と同じ、眠たそうな顔で赤城は言った。
「俺、やらなきゃいけないことあるから先行ってるな」
「うん、分かった」
早足で行ってしまった彼を尻目に僕は下駄箱を開ける。寮と校舎は繋がっていないから、こうやって靴から下履きのスリッパに履き替える必要がある。
体育用のスニーカーとスリッパが入っているはずのそれを開けた時、僕は目を見開いた。
白い封筒が入っていたからだ。
「(なにか…あったっけ…)」
頭の中にあるかもしれない可能性を探ってみても何も分からなかった。嫌がらせなら嫌と言うほどされたことはある。けれど、このような紙片が入っていたことは無い。
まるで爆弾でも掴む時のように、僕はそっと、その封筒を摘まみ取った。
宛名は書かれていない。ふと昨日の、姉さんの書いた手紙を思い出す。
ひとけのない最上階に移動した僕は床に座り込み、鞄から先程の封筒を取り出した。もたれかかった壁の反対側、つまり僕の目の前には地理で使う特別教室がある。廊下に設置された棚に飾られた化石。理科室に収まらなかったのか、何故か同じ場所に飾られているホルマリン漬け。それは何も語らない。
埃が舞うなか、ただ僕だけが静かに息をしている環境は、集中したい時に最適だ。
―・・特にこの手紙を読むことに関しては。
手紙にはこう書かれていた。
朝陽へ
今日の放課後、伝えたいことがあります。
図書室の特別資料室で待ってます。
「…雛森より」
僕は無意識に、ぎゅうう、と、紙を握り締めていた。
「夕…」
目尻から溢れた涙が頬を伝う。
僕も伝えたい。
―・・伝えたいことがあるんだよ、夕。
ずっと悩んでたんだよ。
姉さんが亡くなって、夕が記憶を失った時僕は泣くことしかできなかった。夕が好き、それを死んだ姉さんに責められているような気がしてた。どこにも感情をぶつける場所がなくて、人もいなくて、毎日死にたいって思ってた。
でもそれは間違えだって気付いたんだ。僕の周りにいる人達はずっと僕に手を差し伸べてくれてた。姉さんは僕を…深く愛してくれていた。いつも気にかけてくれていた。
自分なりに前に進もうとする僕を、きっと姉さんは応援してくれる。
もう悩むのはやめる。今日で終わりにする。
だって僕は夕が、
「夕が…好きなんだ…」
もしかしたら夕は記憶が戻ったのだろうか?
そう思い、すでに教室に入っていた夕をドアの外から伺い見た時、それは違うとすぐに分かった。斎藤が隣にいたからだ。斎藤は夕が退院してしばらく経つ今でも万が一のことを考え、常にそばにいてあげている。クラスメイトに理解できない話を振られた時混乱しないようにするためだ。
前から2人は仲が良いけれど、今の距離は何と無くぎこちない。あきらかに夕が斎藤に頼っている。
伝えたいことって、何だろう。
そればかりが気になって、ぐるぐると渦を巻く。
「おはよう、伊吹君」
にっこりと形作られた笑顔は見惚れるほど綺麗で。思わずじっと見つめてしまった。
「どうかしたの?」
夕が笑う。
僕はその心の中を覗いてみたい。早く放課後が来ればいいのに、そう思った。
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