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扉を開けた瞬間、身体が強張るのが分かった。
夕方の、オレンジ色の光で満たされている図書室には人がいない。不気味なほどにシンとしていて。司書室の扉には会議中のプレートがぶら下がっていたから、おそらく教員もこの場にいないのだろう。
ここじゃない。思い出すだけで不安になって手が震えるあの部屋は、ここじゃないのに。
僕にとって忌まわしい部屋。けれど同時に僕と夕が再び出会った部屋だ。
夕は何を思ってこの図書室を指定したんだろう。
白い紙をポケットに仕舞う。
ロビンソン・クルーソーが収容されている棚を何と無く通りすぎて、ある扉の前へと辿り着く。
(特別資料室…ここだ)
特別資料室というのは名ばかりで、普段読まれないような古い書籍、百科事典などがぎゅうぎゅうに詰め込んである倉庫のような部屋だ。けれど使い古しの応接セットが置いてあることから、埃が溜まることがないと聞く。
もし誰かいたらどうしよう。
扉を開けながら抱いたそんな心配はすぐに掻き消された。
生徒数人が屯していたからだ。
ガラの悪い、一般的に不良と表される生徒が数えられる範囲で四人。彼らはソファに腰掛け何やら談笑しているようだった。
夕はたぶん、まだ来ていない。
関わってはいけないと、そう本能が告げる。
じりじりと後退り、そっと出て行こうと扉に手をかけた、その時。
「待ってたよ」
首に感じた強烈な痛みと共に、僕の意識はブラックアウトした。
―・・短い夢を見た。
図書室での事件の後しばらくして、僕と夕が付き合い始めた頃の記憶だ。
僕らは夕の部屋で勉強をしていた。
金色の髪の毛が肌と混ざり合う。おだやかな日差しを浴びてまぶしい。けれど僕が目を逸らすことはなかった。あるいは、逸らすことができなかったのか。
難しい数学の公式を呟いたあと、夕方になれば、優しくキスしてもらう。
こんな、舌を絡める熱いキスはいつからするようになったっけ、と思う。夕とのくちづけは甘い。それはきっと唾液が甘いから。
『ね、そろそろ限界。あさひを食べたい』
その日、初めて夕は僕を抱こうとした。
ネッキングの合間にTシャツの中をまさぐられるのはいつものことで。けれど、劣情を言葉に表されるのは初めてだった。だから、
『怖い?…震えてる』
夕はあの怖い男から僕を救ってくれた人なのに。怖いと思うのは間違っている、失礼だ、そう思えば思うほど怖くなった。
身体を開かれるのは怖い。
見透かしたように夕は言った。『ごめんね』
『優しくする、なんて言えない。朝陽の全部、俺に見せてほしいよ』
『大切にする。ずっと…』
そう耳元で囁かれた時、僕は一生この人と恋をするんだろうと思った。
『セックスは怖くない。俺が教えてあげるから、全部見せて』
そのままぱた、と床に倒れて、ふかふかのラグの上で優しく、激しく貪られた。
初めてのセックスで僕は知った。
好きな人との性行為はとても幸福なことで、また同時に尊いものなのだと。
ラグの上、勉強机の上、そしてベッドへと場所を移したセックスは2度目の絶頂で幕を閉じた。夕は言った。
『ね、幸せだったでしょう』
そうだ。幸せなはずだ。
なのになんで、こんなにも息苦しいのだろう。
僕は上半身裸の状態でソファの上に組み敷かれ、知らない男の唇から注がれる吐息で目を覚ました。
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