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肌の上に落とされたカッターシャツ。握ろうとして、縛られていることを思い出した。
「しん…?」
薄い唇が微笑を形作る。
「遅くなった。よく頑張ったね」
その静かな笑みが僕はなぜかとても怖い。
シンは床に沈んだ男達を僕には見えない、しかし穏やかではない方法で立ち退かせたようだった。仰向けになった僕の、手首を戒めていたネクタイがしゅる、と音を立てて取り外される。
「酷いな。痕になってる。」
濡れた唇が血管の上を撫でる。
シンは片足をソファに乗り上げ、僕に覆いかぶさっている。
「どうして…」
ふ、と笑ってシンが応える。
「一緒に帰ろうと思ったらいつの間にかいなくなってたから。見つけられてよかった」
つるんと光る、黒いゼリーのような瞳にうつった僕がどんどん近付いてくる。
「好き」
「ひぃ、大好きだよ」
シンの目はらんらんと光っていて。
「―・・・・!」
傾けられた彼の首に、口元に、僕は恐怖の理由を悟った。
そして同時に、夕がここへ来ないことも。
シンは問う。
「ひぃは俺のこと、好き?」
「―・・ちが」
ちゅ、と小さなキスが落ちる。
「ん…?」
「ちがう、」
「ちがうよ、しん…」
一筋の涙が流れる。まっすぐ繋がった視線。おそらく無意識だ、シンの目が大きく見開かれた。
「シンは、夕じゃない」
「…あさひ、」
「離してっ」
「……朝陽」
冷たさを帯びていく声に、僕は恐怖で震えあがった。両手首をそれぞれ掴まれた場所からもその温度が伝わってくる。
僕を見つめる彼は最早シンでも、赤城でもなかった。
「ど、して」
枯れた、頼りない声が響いた。
「どうして、あんな手紙を書いたの……?」
シンは笑った。
「何を言っているの?ひぃは」
「僕、知ってる」
あの場所は、夕と出会った図書室は…こんなに暗くて、寒かったっけ。
今となっては思い出せないその部屋がとても愛おしいと思った。
「知ってるんだよ……」
手首を掴む手に力が入る。
涙が耳許へと滑り落ちた時、僕は口を開いた。
「夕は僕のこと、朝陽って呼ばない」
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