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僕達が通う高校は全寮制だけあって郊外にある。
水族館はそこから遠く離れたところにある為、まずは地下鉄で市の中心部へと向かい、それからバスに乗り継ぐ必要があった。
休日だからなのか、地下街は人でごった返している。
ヒールが地面を蹴る音。香水の匂い。高い声に、低い声。
いろいろなものが混ざったここの空気は、どんよりと重くて少し苦手だ。
地下鉄の改札を通りながらふいに振動した携帯端末を起動させる。受信したのはクラスメイトの赤城慎一からのメール。
「んー、…あ。…赤城が、今日の夕食は竜田揚げだって」
「ふうん」
学校の食堂は月毎に食べる日と食べない日、それらをまとめた届け出を出す仕組みを採用している。
こういう日でないと滅多に学校の敷地内から出ない僕と夕は、毎日食堂のお世話になっていた。
「…相変わらず赤城と仲がいいんだね」
「?まあ…中等部の頃は部屋が一緒だったからね。それがどうかしたの?」
「……なんでもないよ。…それより少し喉が渇いたな」
「あ、もうペットボトルは空なんだっけ。コンビニでも行こうか」
「うん」
「…で、なんでご飯を買うの」
カツサンドとハムサンド、パスタ、プラスチックのカップに入ったサラダ、それから夕の好きな、僕が苦手な苦い珈琲。
それらを両手に抱えた夕は少し背の低い僕の顔を覗き込むようにしてこう言った。
「ちょっと甘いものが食べたくなって」
にっこりとしたその笑顔の意味がよく理解できなくて、僕は首を傾げる。
サンドイッチとパスタとサラダは甘くないと思うんだけど。
「朝陽はカフェモカでいいよね?」
「えっ、うん」
夕はカップに入ったカフェモカを手に取るとレジへと歩き出す。
どうやら奢ってくれるらしい。
こういう時夕は僕が財布を取り出そうとすると機嫌がすこぶる悪くなる。そのことをすでに学習している僕は何も言わずに外で待つことにした。
先程地下から地上へ出てきた時に初めて空の色を知った。
僕の目の前を早足で通り過ぎる人。その先に見える大きなガラスには、とっぷりと暮れた冬の夜がうつっている。
今からバスに乗ればおそらく食堂のラッシュに間に合うだろう。
あのご飯はきっと夕の夜食か何かだ。
夕は頭がいい。もともと素質があるといえば嘘ではないが、何よりそれ以上に努力家なのだ。
気怠さから僕がベッドに身を放り投げる横でテーブルランプを点ける姿を目にしていた僕は、そのことを誰よりもよく知っていた。
「おまたせ…はい、これ」
「ありがとう」
ぷす、と夕がストローを刺しこんだカフェモカは僕の大好物。
有難くそれを受け取ると一口吸う。甘い苦味がじわりと舌にひろがった。
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