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「べ、紅芋タルト!」
今にもパッケージを舐め回しそうな赤城に、斎藤は笑いながらスクールバッグから取り出したそれを僕に手渡す。
「ショートホームルームの前にな、呼び出されてん。部活のことか思うたらお土産やって。修学旅行の。一箱なんて俺1人じゃ食べきれへんし、どうせやったら皆で食べよ思うて持ってきた」
「わ、ありがとう!…そっか。修学旅行かぁ」
「俺らは来年やね」
「沖縄か〜、俺行ったことない。タヒチならあるけど」
「…さりげなくセレブ自慢せんくてええわ」
「って」
デコピンされた額をさすりながら、それでも嬉々として赤城は言う。
「自由行動、4人でまわろーな!」
「…赤城と一緒とか…」
それまで珍しい物でも見るようにパッケージをじっと見つめていた夕は、そう言って赤城を冷めた目で見やった。
「そう冷たいこと言うなって」
「せやでぇ〜まさか1人でグループ組むこともできへんからなあ。最低3人、最高6人やった気ぃするわ。タクシー観光の関係もあるからな」
「うわ…めんどくさ…」
「グループ分けの時は、それこそ雛森の取り合いになるやろうな。モテモテは大変やなぁ?女子やなくて残念やけど」
「はは、ウケる!……うっ、ぎぶぎぶ、頬はつねるためにあるんじゃない!いたたたた」
「はは…夕、そこらでやめておいてあげて。皆お茶でいいかな、珈琲もあるけど」
「俺珈琲牛乳がいいなー」
「わかった。砂糖ナシ、だよね。斎藤は?」
「俺はなんでもええよ」
「それじゃあ紅茶にしよう。新しいのを買ったんだ。夕はどうする?」
落ちていたクッションを適当にベッドに放って、扉の取っ手に手をかける。
「珈琲かな…手伝うよ。俺が珈琲淹れる。」
「ありがとう、助かる」
「どういたしまして。」
パタンと閉じた扉のすぐそば。
そこにキッチンはある。
完全な自炊を目的としていないため、作りは簡単なのだけれど。
壁を四角く刳り貫いたような入り口に足を踏み入れれば、左端のステンレス製シンクから始まって、ガスコンロまである。反対側の壁には冷蔵庫も。
食堂に入り浸っている僕らにとっては飲み物を作る場所でしかないのがもったいないくらい十分な設備を備えたそこで、まずはお湯を沸かすことから始めた。
「ゆうー、ティーポット取っ、…て、…わ」
けれどいつの間にか、僕は夕の腕の中で。
背後からぎゅっと抱きしめられる感触に首をひねって顔を伺えば、留守番をする子犬のような顔をする夕。食堂でもこんな顔をしていたな、なんて考えながら少し力を入れて腕をほどき、前から抱き締めた。
背の高い夕の首筋に頬を擦り付けると、かすかに香るヴァーベナ。
爽やかな柑橘系のこの香りが夕にはとても似合う。
―・・扉の向こうは相変わらず騒がしい。少しの間くらいこうしていても、大丈夫だろう。
「…夕、どうかしたの?」
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