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顎がくたくただ。
「ごめんね」
面と向かい合って、髪をかきあげられる。
そう言って剥き出しの額にキスを落とす夕は静かに微笑んだ。
「すごく気持ち良かった」
「ん、…」
ばれなくて、よかった。
そう安堵しながら青い瞳に応える。
レバーを捻り再び火をつけた。
夕の瞳の色とは全く異なる、濁ったような青の炎がゆらゆらと揺れる。
「これが紅芋タルト…」
「夕、見たことなかったの?」
「うん。名前はなんとなく知ってたけど…美味しい?」
「…んー…好みにもよるかな。僕はちょっと、このふにゃふにゃ感がどうもね」
「ほんとだ。タルト生地がかたくないんだ…もたもたしてる…」
「あはは、なにそれ」
それでも4つ皿に並べると、なんとなく様になった。
それにしても空いたスペースがなんだかさみしい。買い置きのお菓子でも並べればいいかな。
「…もう夜ご飯だけど、大丈夫かな」
「あと1、2時間シゴいたら嫌でもお腹ペコペコになるだろ」
「夕はスパルタだなぁ」
そう笑いながらペーパーレスのドリッパーを取り出した。
ガチャッと音がして、振り返る。
「お茶はまだ!か!」
「あっ赤城…」
「……声が大きい」
「まだ時間かかるんか?」
「何分待たせるんだ!俺達は客ぶほぁ、す、脛、が」
「黙って」
「ごめんね…が…ガスコンロが少し壊れてて。これ、運んでくれるかな?」
「ん、俺が運ぶわ」
「ありがとう」
「俺なんか手伝うことあるー?」
「帰って」
「扱いが酷い」
ふつふつと小さく泡を立てたお湯をティーポットへ注ぐ。こうやって容器を充分温めないと、美味しい紅茶は淹れられないから。
「赤城?コップと…それから茶漉しをむこうへ持って行ってくれるかな。もうできるから、そのまま座ってていいよ」
「ん、サンキューな」
パタンと扉が閉じて。
再び2人きりになった瞬間背後から首に腕を巻きつけられる。
その腕に似た、青白いティーポットに熱湯を注ぎ蓋をした。
「よし、と」
「レディグレイか。冬ってかんじじゃないな」
「まあそうなんだけど。ダージリンだと、おかわりには向かないでしょ」
「ああ、なるほど…、…ん」
「?」
「着信……電話だ」
「でんわ?」
僕に絡みついたまま、それでも離れようとしない夕の画面を盗み見る。
はずみで携帯からぶら下がるイルカがゆらゆらと揺れた。頬に光が当たる。
「お母様から」
「ほんとうだ。…って、早く出てあげなよ、ほら…離れて」
「何だろう?嫌な予感しかしないんだけど……ごめん朝陽、先食べてて…あ、珈琲…」
「全然大丈夫。僕が淹れるよ。久しぶりでしょう?ゆっくりね」
「ん、ありがと」
ちゅ、と項にキスをしてキッチンから出て行く夕に軽く手をふる。皿から落ちたのか、転がっていたキャンディーを口に放り込んだ。
口いっぱいに広がるグレープ味を、すぐに囓った。
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