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あの日も雨が降っていた。
朝から降り続く雨に喧騒は全て掻き消される。
肌に食い込んだ靴下留めが赤い痕を作るころ。中等部に所属していた僕は図書室の広い机の隅に1人腰掛けていた。
「おそいなぁ…」
1時間以上待っているのに、委員会に出席中の赤城がドアを開く気配は全くない。
いい加減な学校司書に預けられた鍵を弄びながら頬を机に擦り付ける。
装丁に興味をそそられ、手に取った本はもう読んでしまった。
これ以上読書をする気になれないし、かといって勉強する気にもなれない。
欠伸をして瞼を閉じる。
ウトウトと微睡み溶けはじめた僕の頭に、そっと鳴った着信音が届くことはなかった。
不意に感じた、髪を梳かれる感触に意識が急浮上する。
「…君、」
すぐ傍で聞いたことのない声が聞こえた。大人の、男の声だ。
朝陽はゆっくりと瞼を開く。
白んだ視界に、大きな影を落とすその男が映る。
「もう、閉館時間を過ぎているよ」
その声に慌てて頭をあげると、ぐらぐらしていた像が1つにまとまる。灰色のVネックシャツを硬そうな体に纏ったその男には、やはり見覚えがなく。
「…?」
まだ覚束ない頭で様々な可能性を探る。教員だろうか。少なくとも中等部では見たことのない顔に、朝陽は身構えた。
「司書の先生はどこに?」
「先生は、もう帰られました。…鍵を預かったんです。帰る時に戸締りと返却をしなさい、と。」
「…そうか、…なるほど」
「あの…」
壁を作るような朝陽の視線に男はハッとし、顎に添えていた手を机に置く。
「ああ…私は高等部の教員だよ。ここにしかない資料を取りに行こうと思ったんだ。…しかし鍵が返却されていなくてね。どうもおかしいと思って、来てみたら、…」
「……君がいた」
疑問符を浮かべた時にはもう遅かった。
瞬間詰められた距離に朝陽の体は強張る。顔色を伺うにはあまりにも近すぎるその距離。
咄嗟に握っていた鍵を突き出すと、その手を握った男は目を瞬かせ…そしてにっこりと微笑んだ。
「ずっと君を見ていた。綺麗な子だと思っていたよ」
「白魚のような手も、紅い頬も…大きな瞳も…、とても、とても美しい。」
「それに君の細い脚に、…靴下がずり落ちてしまうほど華奢なその脚に、…食い込む靴下留めが…いやらしくて…」
うっとりとそう、ひとり言のように。
背中を汗が伝った。
「やっ…」
「逃げないで。怖いことはしないから……僕は君を、愛してるんだ」
いつの間にか。
逃げようと動かした身体は机上に縫い付けられていて。
「やぁっ…シ、シン…っ」
サスペンダーとシャツの間を割り入った硬い手が脇腹を撫でる。
「―・・っ?!やだっ、…やっ!!」
バシン!
その大きな音が自分の頬から発せられたモノなのだと自覚するのにそう時間はかからなかった。
バタバタと足をバタつかせた朝陽の頬を張ったその男は、先程までの笑顔と打って変わって冷たい表情を浮かべている。
有無を言わせぬその鋭い視線と、張られた頬から伝わる凄まじい熱量に朝陽の身体は萎むように大人しくなった。
本能的な恐怖に指先から血の気が引いてゆく。
「あ…ぅ…」
「いい子だ、怖いことはしないと言っただろう?僕も…愛しい君に暴力はふるいたくないんだ。わかるよね?」
「っ…ぅ、…」
覆いかぶさった男が涙で濡れた頬をべろりと舐め上げる。
朝陽は最早半ば破るように暴かれたシャツの下でぶるぶると怯えることしかできなかった。
―・・怖い。
助けて。
シンじゃなくてもいい。誰でもいいから…
「すみません、司書の先生はいらっしゃいますか?」
今よりも少し高い、凛とした彼の声がその場に響いたのはその時だった。
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