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例の“他人”と再会したのはそう遠くない、日曜日のことだった。
「…帰省?」
「うん。日帰りらしいけど」
「へー…日帰りなぁ…」
くだけた雰囲気の中、斎藤の間延びした声が床に落ちていく。
日曜日。試験対策もおよそ無事に終わりそうな午後6時。
ふと疑問を口にした斎藤に応えた僕は軽くのびをして立ち上がり、ゆっくりとベッドに腰掛けた。
「御母堂様から電話があったんだって」
「ほーぉ、なんやイベントでもあるんか?」
「知らない。ただ来いとしか言われなかった、って夕は言ってたよ」
「大変やなあ、こんな時期に」
「テストは大丈夫みたい。まあ…夕のことだし、ね」
「はっ、相変わらずよぉデキたやっちゃなぁ」
「あの雛森が素直に帰省するなんて、珍しいこともあるんだね」
テーブルに頬を擦り付けるシンは欠伸まじりに言った。
槍でも降るんちゃうんか、斎藤のそんな言葉に苦笑して、やっぱり楽しいなあ なんてしみじみ思ってしまう。
夕と出会って、付き合って。
斎藤と友達になって、…僕らは4人で遊ぶようになった。
夕は恋人。シンと斎藤は、大切な、友達。
「最初は面倒くさいから厭だって言ってたけどね」
「やっぱりな」
笑い声が部屋に響く。
このふんわりした空気に夕がいないのは残念だけど、いたらいたで脛が危ない。たぶん、今頃きっとシンは瀕死だろう。
3人以外の前では猫を被って聖人君子を演じる彼は今頃、何をしているんだろうか。
「伊吹、そこに置いてある俺の携帯とってーや」
「ん」
「ありがとうな、にしても今日も布団洗濯しとるんか…あ、ぅわっと、」
呼ばれたように鳴り出した携帯を耳にあて、すまないとジェスチャーしてから部屋を出て行く斎藤に手を振る。
部活関係だろうか、…とりあえず、電話がきてよかった。
お茶を零した、なんて言い訳はそろそろ限界だったから。
1組の布団はベランダで夕陽を浴びていて、僕が腰掛けている二段ベッド下段にはパリッと糊の効いたシーツ。
僕と夕はいつもここに2人で寝ている。毎夜と言っていいほど性行為で汚れるから、もともと2組あった布団をローテーションして使っているのだ。
「ひぃ、そろそろご飯じゃない?一緒に食べに行こうよ」
「そうだね…でも、夕がいつ帰ってくるか分からないしなあ…」
「あー…メールしておけば?」
「ん、そうする」
携帯を取り出して、画面をタップする。人がいる前で携帯をいじるのはなんだか気が引けるけど、しょうがない。
「ね、ね、変な顔文字つかおーよ」
「えーいいよ。どれにする?」
「これは?」
「なにこれ…」
「フラメンコする…女性」
「脈絡が無いね」
「言ったでしょ変なのにしようっ」
ドンドンドンドン!
て、というシンの言葉はけたたましいノックの音に掻き消された。
「!?」
「ごめんなぁ、今あいつが…ちょ、水無月っ…」
「斎藤!どういうこと!?」
聞いたことのあるような、カナリアのように高い声に振り返った僕は絶句した。
水無月。そう呼ばれた彼とゆっくり目が合う。
彼もまた、言葉を失った。
火曜日ぶりの、再会だった。
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