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「……」
沈黙が、気不味い。
斎藤と同じ部活に所属している…らしい彼は華奢な身体の持ち主で、僕と同じくらいの身長だ。
水無月光(みなづきひかる)。
電話で斎藤の居場所を知り、駆けつけて来たのだと言う彼の眉は不機嫌そうに少しつり上がっていた。
「ごめんね、もう1つしか余って無いんだけど…」
1つだけ残った紅芋タルトをそのまま手渡すのは、なんだか寂しい。ビニール袋を広げ、申し訳程度の飴玉と紅芋タルトを詰め込む。
「………」
相変わらずの無言に心臓を握られるような気分さえ覚えた。
用件だけを説明すると、いろいろな意味で殺気立った水無月君から逃げるように部屋を出て行った斎藤を僕は深く深く恨んだ。今頃きっと嚏をして震えているに違いない。
ざまあみろ、だ。
それにシンも出て行ってしまったから、本当にこれは、
(背水の陣だ…)
思わず頭を抱えそうになって、堪える。
再会のきっかけは単純だった。
先輩からの連絡ミス。と、斎藤の早とちり。
だいたい1人の後輩に1箱まるまるお土産を贈る先輩なんているわけがない、と今更になって思う。
それに何の疑いを持たず、美味しく戴いた身分なので何も言えないのだけれど。
何がともあれ、僕は今1番会いたくなかった人物と接触している。
「あの、これ…どうぞ…。」
「……」
「本当に、…ごめんなさい。部外者とはいえ、確認もせずに勝手に食べてしまって…」
それでも水無月君はじっと床を見つめて、受け取ろうとしない。
「水無月…君…?」
「随分、お楽しみでしたね」
「え……っ」
暗に、あの日の、踊り場での性行為を仄めかされて顔が熱くなる。
これ以上目を合わせてはいけない、それは分かっているのに、そうしたいのに、責めるような彼の姿勢に僕の身体は言うことを聞かなかった。
「ぁ……え、と…」
何が「心配しないで」だ。
彼の目は明確な殺意を持って、僕を追求しようとしているというのに。
何度も経験した眼差し。
夕に惚れ込み、恋に落ちた男は皆こんな目をする。
「僕は、雛森さんのことが好きです」
「っ…」
「…だから…信じたくなかった。所詮、セックスフレンドだと…」
「違うっ!…ぼくは…っ」
カッとなって、突然口を開いた僕に水無月君は目を見開いた。
その拳は強く握られている。
当然、僕もそうしている。
僕の存在を軽んじてもらっても構わない。けれど夕が、セフレを作るような、…そんな人間だと思われるのが堪らなく嫌だった。
「…僕は、夕の恋人だ」
「………っ」
僕の言葉に彼は強く唇を噛み、無言でビニール袋をひったくった。
「…それくらい…分かっています。…言ったじゃないですか。信じたくなかった、って。」
「え…」
「知っていますか?…管理棟の非常階段から、中庭が見えることを」
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