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「中庭…?」
「火曜日の、ちょうどホームルームが終わる頃です」
そう言って彼はそれまで繋いでいた視線を自ら断ち切ると再び床を見つめた。1つだけ、そこにぽつんと鎮座している染み。その小さな空間にどうやって移住しようか考えているような、そんな凝視だ。
「その時の僕は、まだあなたと雛森さんの仲を疑っていました。…僕と目が合った瞬間楽しそうに笑って、それから腰を使った雛森さんが…2人はどんな関係なのかと考えた時、セックスフレンドなのだと思えるような、そんな余裕をくれた」
「僕はセフレでもいい。好きな人と、どんな関係でもいいから繋がっていたい。そう思える人間です。…だから、…尚更そう思った。思いたかった。」
「でも僕の考えは…希望は間違っていた。……覚えていますか?跪いて、あなたの靴紐を結んだ彼のことを」
眈々と言葉を紡いでいた彼の、突然の問いかけに僕はハッとなって顔をあげた。絡まり合って、零れた視線が染みを作るようにどろりと心に落ちてゆく。
悲しい目。
「その時僕は気がつきました。…考えが、間違えだったことに。その時も階段でぼうっとしていた僕を認めた彼はにっこりと笑いました。そしてその視線をそのままあなたに向け…跪きました。…家柄も容姿も…何もかもが十分に優れている、高貴なあの方が、です。」
つまり靴紐が解けていたから、と言っていた夕の行動は意図的なものだったというのか。
『心配しないで』
「――っ……」
ばらばらの糸が結ばれていく。
「それでも僕は雛森さんが好きです。諦めるつもりはないし、卑怯な手を使ってでも、彼の隣に並びたい。」
負けるとか負けないとか、そういうのとは違う。
彼は夕を深く愛している。もちろん僕も。
だから。
「…僕だって、夕のことが好きだ。慕っているし、想っている。」
普段なら頭が沸騰しそうな言葉を引き結んだ唇から吐露した僕を先程とは違う、自信に満ち溢れた笑みで見返す彼は言った。
「その言葉、忘れないでくださいね」
パタンと扉が閉じて。
ズルズルと壁にもたれかかったまま尻餅をついた。
「……っ」
正直、つらかった。
鳴ってくれない端末を取り出して、照明に透かした。
ゆらゆらと揺れるブルーを突けば眩しく光ったそれを握りしめて、熱い息を吐く。
はやく、帰ってきて。
手を繋ぎたい。
それから抱きついて、腰に手をまわして…そうして降ってくるであろうキスに、縋って。
安心したい。
(不安なのは僕のほうなのかも…)
擦った目を扉に凝らす。
次の瞬間呼ばれたように鳴り響いた金属音に跳ね起き、僕は素足でアプローチを踏んだ。
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