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18※
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「夕っ…」
ふいに水無月君との会話が蘇る。
もし、僕が僕ではなくて、水無月君だったとしたら。
きっと悲しくて、つらい。
好きになって欲しい、見て欲しいのに、好きな人には、好きな人がいて…
抱きついて、胸いっぱいに広がった気持ちを吐き出すように擦り寄った。
「ただいま、朝陽」
そのままぎゅっと抱き締められる。ヴァーベナの香りの中、微かに混ざる外の匂いを見つけて少しだけ、むしょうに悲しくなった。
「やっぱり寂しかったでしょう?」
腰にまわされた手が優しい手つきで背中を摩る。
全てを見透かしたような素振りに僕はコクコクと頷いた。鼻の奥がつうんとなって、今にも涙が零れ落ちそうになる。
「もう大丈夫。俺はここにいるよ」
「…うん」
おとがいを掬われて、唇が重なる。そうしてやっと僕はある異変に気が付いた。
「夕…口、が」
その瞬間ぴくりと跳ね上がった眉を僕は見逃さなかった。
切れた唇の端から滲む血液。
妙に赤いそれを即座に拭った夕はにっこりと微笑んで、再びキスをしようとする。
それはまるで、誤魔化すような仕草で。
その白い腕を掴んだ僕は唸った。
「…その傷、どうしたの」
「なんでもないよ」
なんでもないわけがない。
よく見れば夕の頬は少し、一見分からない程度に腫れていた。
それに髪の毛も乱れている。
…おかしい。
「なんでもなかったら、そんな傷はできないよ」
案外低くなった声。
困ったように眉を下げ、僕を見据える夕は泣きそうな顔をして言った。
「…転んだ、かな」
「そんなっ、…ん」
「…朝陽」
「…っ、ぁ…は」
「朝陽…」
「……夕…?」
「朝陽、…ごめん」
「え…」
「なんとかする、なんとかするから」
唾液で濡れた唇から落ちる言葉はまるで懺悔のようだった。
「夕…?夕、どうしたの」
今日、何があったの?
何をしていたの?
「ごめんね、ごめん」
「夕…」
握られた手が熱い。
光を含んだ碧眼と目が合う。
自然に重なった唇を食んで、貪った。
これ以上、踏み込んでほしくない。
きっと夕はそう思っている。
だから僕はこれ以上言及しないよう、出かけた言葉を飲み込んだ。
それを後悔することになるとは、この時は知らずに。
…玄関先だということは気にならなかった。
そのまま崩れ落ちるように押し倒されて、仰向けになった僕のシャツの中に冷たい体温が滑り込む。
夕の手はコットンリネンのシャンブレーシャツと混じり合って、僕はわけが分からなくなる。
溶けてしまう。
そうだ。いっそ溶けて、1つになってしまえればいいのに。
馬乗りになって釦を1つ1つ外していく夕の首に腕を巻きつけた。
優しく弧を描いた唇にはやはり赤が滲んでいたけれど、すでに僕はそれらを判断する能力を自ら手放していて。
「…ぁ、…あっ、」
剥き出しになった肌を夕の舌が這う。
尖りを口に含んで、軽く歯をたてられた。
「夕っ…」
腰が震えて、意識が遠くなる。
じんわりと染み渡る快感に目を伏せた瞬間。
膝裏と脇を掬われて、身体ごと持ち上げられる。ゆらゆらと伝わる振動に覚醒した時にはもう硬い床の上だった。
いや、違う。これは机だ。
夕がいつも1人で勉強する時に使っている、この勉強机はリビングに入る扉から1番近い場所にある。
「…ゆう…ここ、机だよ」
夕は机に腰掛けた僕にキスを落としながら上着を脱いでいく。
「朝陽…」
その瞳に、もう迷いは無かった。
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