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「あと何分かかるのかな」
「この渋滞ですと、どうでしょう……1時間はかかるかと」
「そう…」
「今日は随分と機嫌がよろしいのですね」
「…わかる?」
「はい、笑っていらっしゃいますから」
最近表情筋を使い過ぎたせいだろうか。安い笑顔になってしまっていないか少し不安になった。頬をさすりながら右腕に当たる甘い体温に目を向ける。
スーツを着用し、長い睫毛を伏せて眠る朝陽。
愛しい人。
「よく眠っておられますね。どうですか、久しぶりに仮面をお外しになっては」
「…榊にはほんと、敵わないな」
「ふふ、…なにぶん、おしめを変えたのは私ですからね」
バックミラーから垣間見ることができる男の目は楽しそうに歪められている。
気分は悪くない。
随分昔に閉じ込めた筈の狡猾さと執着心、それらを扱うため備えられた並ならぬ器量を理解することができるのは幼い頃からの従者、榊1人だけだ。
榊もまた、そんな慎一に執着しているというのはよく分かっていることだった。
「ねえ、どう?…朝陽は可愛いでしょう」
「ええ、とっても」
「朝陽のことが大好きなんだ、僕」
「それでも、靴下留めはされていないんですね」
…ほんとうに、榊にだけには敵わない。
心の中でした舌打ちすら見透かされているようで、いっそ笑ってしまいたくなった。よく懐く犬の甘噛みほど有難いモノは無い。
「それ以上喋るとそのP99で自害させるから」
バレていましたか、そう笑った榊が白手袋をしていない右手に視線をやったのを認めて、朝陽の額にそっとキスを落とした。そのまま泣きぼくろまで唇を這わせると、ぴくんと動いた太腿をそっと愛撫する。
たしかここに、キスマークがあった。
スーツに着替える際、眠気で目を潤ませる朝陽は慎一の視線に全く気が付いていなかった。……全身に色濃く残る情事の痕さえ気にならない、そんな様子で。
もちろんそこからのびる脚に、靴下留めは無い。
ハーフパンツでは無いのだから当たり前だろう、そういうことでは無い。
これは比喩だ。
…慎一が、朝陽に嵌めた足枷。
それは中等部の図書室で起きた小さな事件、そしてその場を目敏く狙った1人の男によって既に外されている。
朝陽はもう、他人のモノだ。
キスマークに形を変えたそれを…自分ではない他の男が嵌めた枷の存在を主張された時は、分かっていたこととはいえ気が狂いそうになった。
もしあの場で理性の糸が切れていたなら、…今この場にいないだろう。押し倒して、華奢な腕を引っ掴みガンガンに犯しまくっていたに違いない。
レイプされるであろうことを見越して野郎を野放しにし、それを助けたことで英雄を気取るあの男が許せないわけではない。自分ならそうしていた。何より先を越された自分が許せないのだ。
きっと雛森、あの男は婚約でも取り付けられたのだろう。
狡猾な優等生になりきれないのなら、痕など付けるべきではないのに。将来すら掌で制御できない奴は何をやっても駄目だ。
そう。朝陽を幸せにできるのは、自分だけ。
「可愛いなぁ…」
柔らかな髪にキスをする。
もう少しだけ、馬鹿な「赤城慎一」でいよう。
寄り添って、ゆっくりと瞼を閉じた。
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